黒猫翁の言いたい砲弾

新聞やテレビを賑わしていることについて思ったことを書いていくページです。公開の備忘録?ですかねw

藤井聡さんと橋下徹さんのこと

久しぶりにネットを長時間閲覧できる機会があったので,色々な記事を読んで楽しんでいたら,本当にたまたまですが,橋下徹さんが次期大臣候補になるかもしれないというものをいくつかお見かけしました。橋下氏は,大阪都構想化の住民投票の否定も含め地方自治の方面では事後に数多くの訴訟を提起された点においても,客観的にみて,地域政治家としてはとても成功したとはいえない方かもしれませんが,今度は国策を講じる大臣としてどんな政策を志向しているのか興味を覚え,そのご意見などを調べてみました。まずは,藤井氏の意見がことの発端になります。

https://38news.jp/politics/10721

記事中の意見は,橋下氏から見ると苦々しい結論が書かれていますが,そう主張する理由がきちんと付されたもので,私としては,橋下氏からの理性的な反論を期待していたところ,なんと以下のような有様で・・・同氏から藤井氏への「反撃?」なる,名誉棄損を含む,理由のない侮辱に満ちたものしか発見できず,失望しました。文中「彼」「こいつ」などと書かれているのは文脈からして藤井氏のことを指しています。

 なお,7/10前後のツイッターの中で,橋下氏の発言の一部をコピペして,以下に掲載しました。その中で,高橋洋一さんという方が出てきますが,この方は大阪維新の会又は大阪市の顧問か何かをされている(又は,いた)方で,現内閣官房参与の浜田さんと同じ,財政出動を伴う政策を否定又は軽視し,日銀による「金融政策」だけですべてが丸く収まるなどとする,(現在では日本でしか信じる人のいない,)いわゆる「リフレ派」なる経済政策を推奨する方です。(上念司さんという方は済みませんがよく知りません。)

 

橋下徹氏のツイッターのログ記録-時刻降順】

●こいつと二人きりで対談しても、浜田さん原田さんにやったように「橋下は藤井氏が正しいと謝った」と虚を言いふらすだろう。誰も見ていないから。僕がなんでこいつレベルの学者と二人きりで対談なんかしなきゃならないの。こいつの売名になるだけ。

●こいつの勘違いの甚だしさは尋常じゃない。自分が望めば誰とでも対談できると思い込んでいる。何で僕が藤井氏レベルの学者と二人きりで対談しなきゃいけないの?僕にとって何の利益もない。やるなら有権者の判断に資するためのもの。

内閣官房参与・京大教授藤井氏。自民党二階さんの庇護の下に、まあ威勢のいいこと威勢のいいこと。他方自民党大阪市府議には時代劇かと思うほど「恐れながら」とへりくだって、自民党のために自分頑張ってますのアピールメール。ダメだこりゃ。

●僕を罵倒し続けた内閣官房参与・京大教授藤井氏。彼の人間性が分かる決定版。自分が一番賢く、自分が絶対的に正しく、自分が誰よりも強くなければ我慢できないタイプ。彼は百田尚樹氏も罵倒したらしい。こういう奴、昔いたな。なんか可哀そうだな。

●僕をとんでもない人間だ、下品だ旨罵倒し続けた内閣官房参与・京大教授藤井氏。藤井氏の家には鏡はないのだろうか?こいつの給料のために今納税しているのかと思うとやり切れない。藤井氏のこのような発言から僕は反撃に出た。

●税金でたっぷりと自由な時間を与えてもらって、彼の給与を負担している勤労者よりもちょっとだけ読んでいる本の量が多いのかもしれないが、自分サイコーと思い込んでいる。こんな学者が日本を亡ぼす。

●彼は僕のことを含めて、自分の考えに合わない者を下品だと人格攻撃する。藤井氏はこの映像を見て自らの下品さに気付かないのだろうか。彼は西田さん二階さん等の権力の犬になり、形式的な内閣官房参与になった。

●藤井氏は雑誌で、橋下は藤井をすごく尊敬していると人を介して伝言したきた、裏表のある非常に恥ずかしい奴だと公言。それは複数の証言者がいると。ところが証言者は0。正義のミカタの出演者やスタッフは迷惑千万。普通はまず周囲に確認してから公言するもの。
⇒(高橋洋(嘉悦大))正義のミカタ。本番前、橋下さんが訴えるという話。藤井さんに伝えたのが東野さんかオレかという噂に、二人で大爆笑。そんなのいうわけない。少なくともオレは聞いたこともないので証人にもなれない。藤井さんから、伝えたのは法曹関係者とのこと。私人相手にふっかけるとリスクがあるぞな

●彼は大学の外で常識や現実、そして人間というものを学んだ方がいい。人間は完ぺきではない。特に自分自身というものは。他人の粗を探して人格を攻撃しても、結局は自分自身にも当てはまるという簡単な真理を彼は理解していない。小難しい本の読み過ぎの弊害の典型例。

●彼は大学の外で常識や現実、そして人間というものを学んだ方がいい。人間は完ぺきではない。特に自分自身というものは。他人の粗を探して人格を攻撃しても、結局は自分自身にも当てはまるという簡単な真理を彼は理解していない。小難しい本の読み過ぎの弊害の典型例。

●彼は大学の外で常識や現実、そして人間というものを学んだ方がいい。人間は完ぺきではない。特に自分自身というものは。他人の粗を探して人格を攻撃しても、結局は自分自身にも当てはまるという簡単な真理を彼は理解していない。小難しい本の読み過ぎの弊害の典型例。

●彼は自分が公人であることの認識が全くないようだ。他人を罵りそれをもって公への露出を目指す。仕える権力には平身低頭で擦り寄り肩書を維持する。自分こそが一番賢いと信じ込み民主主義を否定するような言動に自己陶酔する。僕はやられたらやり返すだけ。自分からはやらない

内閣官房参与藤井氏は僕を中傷する記事の中で、浜田さん原田さんが「自分は間違っていた。藤井氏の方が正しい」と謝ってきたと書いています。橋下も同じようなもんだろうと。しかし浜田さん原田さんは全否定。この藤井氏は話を盛るどころか虚言癖のレベルですね。彼が内閣官房参与なんて日本も末。
(⇒上念 司)経済評論家の上念司です。記事中の原田氏、浜田氏に直接確認しました。
記事中の原田氏、浜田氏に直接確認しました。
原田:そんなことは言ってない
浜田:「プイライマリーバランスにこだわるなというのはいいが、藤井聰理論のように金融政策無視では今の完全雇用は達成できなかった」と言った。ご参考まで

内閣官房参与・京大教授藤井氏。自民党二階さんの庇護の下に、まあ威勢のいいこと威勢のいいこと。他方自民党大阪市府議には時代劇かと思うほど「恐れながら」とへりくだって、自民党のために自分頑張ってますのアピールメール。ダメだこりゃ。

内閣官房参与の藤井氏は話を相当盛るタイプの人物ですね。自分が絶対的に正しいと病的に信じ込んでいるタイプ。問題の記事では、浜田さん、原田さんが自分の誤りを認めて藤井氏の方が正しかったと謝りに来たと書いています。常識のある大人はこんなこと公にしないでしょ。公人として不適格な人物。
(高橋洋一(嘉悦大))浜田さん、原田さんに言及している所がこの記事の中にある。両先生ともに誤りを認めたというところはオレの知る限りで正しくない。藤井氏の議論が誤りというペーパーも書いている。両先生とオレは長い付き合いだし一応確認もしている。オレは刑事・民事で証人候補らしいが、これもいわざるをえないな

 

 一言でいうと,橋下徹氏が,知事や市長時代と同様に,気にいらない人を徹底的に侮辱しようとする姿勢,いわゆる“母のでべそ”的な空疎な発言を延々唱え続けるナイーブなやり方は相変わらず変わっていないのだなというのが,私の感想です。「このハゲ」といった某議員を彷彿とするレベルではないかと思います。

 橋下氏は,大阪維新の会と関係が深い(むしろその一員ともいえなくもない)高橋洋一氏などが被告側証人として応じないのを見越して,藤井氏に名誉棄損等の民事訴訟を起こすなどとも発言していますが,そうであれば,その後の「藤井氏があたふたしていると聞いた」(←上記ログでは掲載していません。)と主張したことを疎明する人証をきっちり揃えた上で,むしろ藤井氏側からの名誉棄損及び執拗な侮辱に対する強力な「反訴」の可能性を意識して対応しなければいけないだろうと感じました。全体として考えると,もし橋下氏側から裁判を起こすとなると,逆にどちらが被害を被っているのか頭を傾げるような案件ですので,裁判官を説得するのは相当困難と思われます。

 なお,特定個人に対して徹底した侮辱を加える人格的傾向をもった人が,わが国の国民とその権利を守る大臣になるなどというのは,裁判云々という以前に有権者の心情としてあり得ず,一連の報道は,おそらくごく一部の政治勢力からリークされたデマなのでしょう。(黒猫翁)

ダブル選挙の結果を受けて、近畿メガリージョン構想の修正が必要だと思いました

 大阪ダブル選挙で「おおさか維新の会」が圧勝となりました。この政党は的外れな政治的主張もさることながら、限りなく詐欺的手法に近い政治活動にも眉をひそめるところがあって、内心、維新以外の候補を応援していました。特に自民党が掲げた「近畿メガリージョン構想」は、大阪、というより関西全体の経済を新幹線を中心とした交通インフラ整備によって勃興させようというもので、世界各地の成功例や東京の事例を垣間見るだけでも非常に合理的な発想であることが分かります。しかもこれを与党が一丸となって(すなわち予算も政治力も総動員して)プロジェクトを進めるとなると、いよいよこれからは関西復興の幕開けになるに違いないと大いに期待しておりました。
 ところが、こともあろうか、知事選も市長選も維新側の勝利となり、一気に暗雲が立ち込めてしまいました。新聞によると、維新は民主的な手続きで何度も廃案にされた都構想をまたまた進めたいと思っているようで、今後の府議会、市議会での議論は、おそらく「大阪市解体構想」復活で一色に塗りつぶされることになるでしょう。今回のダブル選挙で自民党候補が全滅したのは何が悪かったかというと、それはやはり自民党の底力が出せなかった、あるいは出さなかったせいではないかと思います。憲法改正の多数派工作とのからみもあり、議員の一人一人に本当の意味で危機意識が欠けていたのかもしれません。自民党は大いに反省すべきでしょう。


 ですが、私はそれだけではないと思います。これが大阪でなく他の都市であれば、(韓国でよくある)嘘とデマに満ち満ちた「過激な圧力団体のような政党」が、冷静で中道的な日本の選挙民の支持を得られるとはとても信じられないからです。いかにテレビやマスコミの偏向報道の後押しがあったとしても、です。ところが大阪という土地では、そのような団体が一部ではなぜか熱狂的に支持され、おまけに府民・市民の多くが、戦前への先祖返りのような非合理的な政策にも寛容な態度で平然としていられるわけで、本当に不思議な現象です。残念ながら大阪ならではの選挙結果・・・といっても過言ではないかもしれません。しかし、いずれにしても大阪の選挙民は、結果として、メガリージョンという近畿圏全体のプロジェクトに背を向け、大阪市解体構想を再度進める方向性を選んでしまいました。大阪府大阪市は今後、元来た道を引き返すように、またもや不毛な都構想の泥沼に引きずりこまれていくでしょう。大阪の行き着く先がどうなるのか――個人的に大阪という町にシンパシーを覚える私としては気になるところではありますが、一方で、首都直下地震南海トラフ地震による被害に備え、東京一極集中の解消や地方再生策の実行は待ったなしの状況であり、大阪のゴタゴタが済むまで手をこまねいて立ち止まっていることはできません。たとえ大阪を抜きにしてでも、近畿圏の経済復興プロジェクトは加速して進めていかなければならないと思います。


1 近畿圏は大阪府だけではない


 現在の近畿メガリーション(新幹線ネットワーク)構想では、敦賀まで延伸した北陸新幹線を大阪まで繋げるのがメインとして考えられています。そのルートは色々候補がありますが、最近では与党の新幹線プロジェクトチームで、敦賀と舞鶴を結び、そこから京都を経て、大阪府の天王寺まで延伸し、将来的には関西空港大阪府泉佐野市)、和歌山を結んで、さらに次の段階で淡路島、四国まで結ぶという案(下図)が検討されています。

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 この案は北陸地方近畿地方の移動時間を飛躍的に短縮するだけでなく、国際的な観光都市でもある京都を経由することで、ここのところ円安を背景に激増しているインバウンド(訪日客)の需要をさらに呼び込む起爆剤になり得る優れた案だと思います。

 しかし、図でもわかるように、この案では途中からほとんど大阪府の中を通過することになるため、維新が牛耳る大阪においてプロジェクト進展の可能性は相当低いといわざるを得ません。そもそも政令都市である大阪市から吸い上げた財源で負債を返済しようとさえしている大阪府が、大型でしかも自民党発の投資プロジェクトを認めることは考えにくいですし、仮に進めることになったとしても都構想の議論でかき回されて混乱している担当役人たちが、大阪の中心地域の複雑な権利関係(土地など)を調整できるとはまず考えられません。大阪を通すルートはそもそも、与党一丸となった強力な推進力がなければ実現できないものだったということです。つまり、ダブル選挙で自民党が負けた時点で、この案の実現性はガクンと下がってしまったということです。

 それ以外にも、私自身としては、上のルートにはやや疑問があります。それは「なぜ近畿圏で最大の経済規模を持つ大阪府にあえて追加の新幹線を通す必要があるのか?」ということです。
 複数の新幹線の終着駅となっている東京と比較すればもちろん大阪は相当劣っていることは事実です。今現在の経済規模が一番大きい大阪を今後も近畿圏の中心として位置付け、東京に比することのできる都市に育て上げる目的があるとすれば、本案は合理的ではありますが、果たしてそれによって何が残るでしょうか。想像できる将来の姿は、関東における東京の一極化と同じように、近畿における大阪の一極化の進展ではないかと思います。「地域内における地域格差」の拡大です。地方再生・一極集中の解消が最終目的であるなら、大阪に新幹線を通すのは後回しにして、むしろ積極的に他の近畿圏に新幹線を通すべきではないでしょうか。それがそもそもの発想となり、頭の体操で思いついたのが下図の新ルートです(しばらく笑わずにお読みくださいw)

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 舞鶴から京都まで、そして、四国新幹線への延伸を見据えて和歌山を暫定的な終着駅とする点は前記ルートと同じです。ですが、途中ルートがまったく違います。この新ルートでは、大阪を取り巻く県(京都府奈良県和歌山県)を新幹線が走ることによって、それらの地域の活性化を図り、むしろ大阪との経済格差を縮小させることが主眼となっています。また、本案には次のような利点が挙げられます。


ア) 北陸、さらには甲信越地方の潜在的な観光客をも呼び込むことができる点は前の案と同じだが、本案の場合、海外からの観光客が訪れる場所として毎年高ランキングに挙げられている、「京都」、「奈良」、「高野山がすべて途中駅にあり、それ以外にも山あり川ありの豊富な観光資源があるため、大きなインバウンド収入の増加が期待できる。


イ) 東京の高速道路における外環道と同じような役割となっており、(遠い?)将来、大阪府がインフラ投資に前向きになった時点で、関空・和歌山間などの新幹線の増設によって、大阪府もネットワークに組み込むことができる。特に、大阪府の第二の政令指定都市である堺市がその気になれば、たとえば堺・奈良間の新幹線増設は、大阪市内を通す原案よりもハードルは低いと考えられる。


ウ) 大阪府内に線路を敷設するのと異なり、奈良県和歌山県は土地の権利者も限られており、土地代も安いため、線路延伸に係る費用と工程を最小化することができる。また、既に小規模な従来路線(JR西日本)がルートに沿って敷設されているため、調整は進めやすい。


エ) 大阪府の政治的状況に左右されることなく、新幹線ネットワーク、すなわち近畿メガリージョンのプロジェクトを進めることができる。(この際、和歌山を地盤とする二階氏の存在は大きな推進力となるはず。)


 以上がメリットですが、もちろん課題もあります。一つは、関空の訪日客の新幹線ネットワークへのアクセス性です。大阪府が新幹線増設(関空・和歌山間、堺・奈良間など)を完成させるまでは、従来の移動手段(バス、電車)がメインとなりますが、工夫によってはある程度利便性を改善させることも可能です。
 まず、関空・和歌山間のリムジンバス(約40分)はこれ以上時間短縮できませんが、鉄道であれば直行の定期便を増発することで移動時間の大幅短縮を図ることができるでしょう。また、現在、関空・神戸間を高速フェリーの定期便が走っていますが、関空・和歌山間にはなく、和歌山港からのフェリーは行き先が徳島に限定されています。今後新たに関空和歌山港間を高速フェリーで結べば、利便性はもとより、また違った意味で日本観光の売りになるのではないでしょうか。

 

2 残念ながら大阪のさらなる地位低下は避けられない


 上で述べた案は、近畿全体の経済圏を考えたもので、大阪自体は「後回し」にするという、これまでにない考え方に基づいています。本来は、京都、奈良、和歌山のみならず大阪も一緒に成長していくという青写真のもとでルートを考えるのが理想的なのでしょうが、地域再生が待ったなしの状況で、大阪の府民・市民が今回のような選択をしてしまったからにはどうしようもありません。近畿メガリージョンプロジェクトは「与党の力で」かつ「大阪の外側で」淡々と進められ、気が付くと大阪以外の周りは全部新幹線でつながっていた、という事態も想定しておかなければならないでしょう。また、同じ意味で、自民党が強く主張していたリニア新幹線の大阪同時開通も、今回の選挙によって相当説得力を失ってしまったのではないでしょうか。
 「知らない間に大阪が陸の孤島になる」――もちろん与党自民党維新率いる大阪府大阪市に対して、大阪を含めたメガリージョン構想を粘り強く説得していくでしょうし、また、そうすべきですが、どうも最後にはこんな姿を想像してしまいます。国民の一人としてはまことにもって残念な話です。(黒猫翁)

大阪都構想の投票結果を考えてみました

下の表をご覧ください。

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(↑作りこみ悪くてすみません)

 上段は2011年の大阪市長選挙の投票結果です。このときの候補者は、橋下徹氏と当時現職だった平松邦夫市長の2名で、まさに今回と同じようなAかBかという二者択一を問う投票だったといえます。当時の新聞に報道されていた選挙の争点も、「大阪都構想」と「公務員改革」でありましたから、今回の橋下陣営が街宣でまくしたてていた内容とかぶっていますよね。(協定書の賛否を問う投票が公務員の腐敗となんの関係があるんだ?という当然の疑問はとりあえず脇に置いて、橋下氏の16日のラスト演説でもおわかりのように公務員や既得権益者の腐敗撲滅が「大阪都構想」のサイドメニューだったことは事実です。)

 さて2011年の投票結果からすると、いわゆる「大阪都構想プラスα」は圧倒的多数で大阪市民に支持されていた、というのが当時の世論です。20万票以上の差をつけています。


 ところが今回の結果がどうなっているかというと、まず特徴的なことは「棄権票(投票しなかった人達の数)」が相当減っています。その数、なんと12万8千票――前回投票しなかった人のうち、これだけの人数が投票所に出向いたわけです。
 さらに賛成票が5万6千票も減っているのが分かります。つまり、上の表をじっくりと見ると分かりますが、2011年に投票しなかった人々のうち12万8千人が都構想に「反対」の票を入れ、さらに2011年に賛成票を入れていた人のうち5万6千人が反対票に鞍替えしたという構図が見えてきます(合計で18万人)。実際は棄権数の何割かは賛成票を入れ、反対票から賛成票へ鞍替えした人もいたはずですが、そういう細かい話は横に置いて上表を素直に見るとそうなります。

 要するに、今まで投票してなかった人の一部がゴソッと反対票を投じ、前に賛成してた人もかなりの割合で反対票を投じたということです。

 得票数を見るだけでは僅差には違いありませんが、4年前と比べて、「210万人のなかで、なんと一割近い・・・18万人もの人が反対票を増やす方向に舵を切った」というのが事実なのですね。これは驚くべきことだと思います。“僅差”だから橋下氏は善戦した、だから引退する必要はない等と特に維新側からのリーク発言がよく報道されていますが、実際は4年前の大優勢が大きく減退し、ついに同等あるいは劣勢にまで支持を失ったと見るべきでしょう。

 さらに「僅差」という結果について注意点がもう一つあります。それは投票用紙に書かれた記載の心理学的効果のことです。藤井氏の心理実験によれば、使われた投票用紙には「特別区を設置するかどうか」ということしか書かれおらず、肝心の「政令大阪市を廃止」するという記載を追加した用紙を使って投票すると反対票の得票率が賛成票の得票率より5.2%高めに出る、とされています。これを適用した場合、賛成対反対の比が、49.4%対50.4%(票差1万票)だった結果が47%対53%(票差8万4千票)に修正されることになります。これはもはや僅差とはいえないでしょう。いずれにしても今回の投票は実質的に維新側の惨敗です。

 

 大阪都構想の支持がここまで萎んでしまったのはなぜでしょうか?

 理屈としては、2011年から2015年までの4年間の賛成派・反対派の広報活動の結果ということになりますが、結果的に反対派が大量に増加しているということは、要するに賛成派の広報活動より反対派の活動が功を奏したということです。

 賛成派の広報活動が足りなかったというつもりはありません。橋下市長を中心としてこの4年間、(捏造グラフ入りの)HPの整備、(サクラ満載の)タウンミーティングの実施、それから投票告示以降は(肝心の協定書の中身を伏せた)テレビCMや折り込みチラシ、果ては(洗脳ヘッドギアかとツッコミを入れたくなるくらい執拗な)電話攻撃など、広報には相当のお金が使われてきました。[ちなみにその支出元はすべて政党助成金でしょうから皆さんの税金がヘッドギアに使われたということになります。] おまけに区長選挙をめぐっての公明党との取引や菅官房長官をはじめとする内閣への協力要請など――およそ考えつく限りの謀略、もとい集票活動が行われてきたといって過言ではないでしょう。ところが問題にしなければいけないのが「投票の数日前に都構想を理解しているのはたったの47%だった」という事実です。提案者である維新側の4年間にわたる鬼神のごとき広報努力にもかからわず、「理解したのはたったの47%」なのですね。これは反省すべき、というよりも「一体何をやってきたんだ?」と糾弾すべき問題だと思います。4年間延々とイメージ広報しかやってこなかったことの結果ということになるのでしょうか。

 逆に反対派の広報については、藤井氏が「7つの事実」を公開する以前は府・市議会での議論以外、活動らしい活動はされていませんでした。ですが、それ以降は情報提供を主軸に捉えた広報活動を展開することによって、「有権者に正しい事実を伝えた上で投票に臨んでもらおう」という民主主義の王道を地道に進めてきたといえるでしょう。これによって無料バスなどの福祉サービスの低下を知った高齢者層が重い腰を上げて投票所へ足を運ぶようになったことは想像に難くありませんし、また、以前は都構想に賛成していた人達も思い切って反対票に転じるなどの行動をとるようになったのだと思います。


 大阪市における維新の党のコア層の集票数は、前の記事でも推測しましたが、大体50万票くらいです。今回の賛成票は70万票弱ですから、差引20万票くらいがここ数週間の「ハチャメチャなイメージ戦略」でゲットした賛成票だと考えることもできます。しかし得票結果が4年前と比べて5万6千票減っているということは、「イメージ戦略で新たに20万票獲ったが、反対派の活動などによって25万6千票に逃げられた」ことを意味しています。橋下市長と維新側はこの事実を正しく理解しているはずですから、内心ひどいショックを受けているでしょう。

 それにしても、反対派の票の伸び――普通は投票しない層からの票の発掘と賛成派からの切り崩し――ですが、コア層が有権者の4分の1もいる独裁国家のようなところでコノ結果ですから、おそらく反対派にとっては選挙史上、類まれな成功例といっていいのではないでしょうか。この成功を実現させたのは、もちろん各派議員の方々の地道な街宣活動の結果でもありますが、最も貢献したのは、たぶん(というか間違いなく)藤井氏の言論活動だったと思われます。反対派議員たちへの理論的支柱となった意味でもその効果は絶大だったでしょう。

 それにしても橋下市長もとんでもない人を敵に回したものです。愉快な仲間たち(維新の党、大阪市顧問、そして過激なネット支持者)が数を頼んだ排斥行動をとったり、時には公党の権力を振り上げて違法な言論封殺を試みるなど、ありとあらゆる非民主的手法で藤井氏の存在を社会的に抹殺しようとしたにもかかわらず、フタを開けてみたら何と自分自身が政界から引退を余儀なくされ、おまけに苦労して築き上げた政治団体の屋台骨もずたずたにされてしまいました。たった一人の個人の学識と強い意志に逆に完膚なきまでに叩き潰されてしまったわけです。維新側は今、必死で体制維持のプロパガンダを流し始めていますが、果たして今後どう変化していくのでしょうか。

 最後になりましたが、今回の騒動は「100日」でひょっとしたら間違った世論を正しい方向にひっくり返すことができるかもしれない――という希望のようなものを与えてくれた稀有な一件でした。わりと長く生きている私ですが、こんな経験は初めてです。藤井先生のことですが世の中にはホントにすごい人がいるもので、久しぶりに脱帽いたしました。(黒猫翁)

橋下市長のラスト演説を文字起こししました

  5月16日、なんば高島屋前で行われた最後の演説です。「今、負けています」という訴えはこれまでの市長の広報活動の中で何度となく繰り返していましたし、また、フライイング敗北宣言については結局行われませんでした。二匹目のどじょうは虫が良すぎると思ったか、あるいは藤井氏のサイトやネット上であれこれ取沙汰されていたため、むしろやったら逆効果だと判断したのかもしれません。
 政治家をやめるという件(くだり)は私の予測が当たりました。ちなみに「やめないでー」という女性支持者の声を入れたところは見事的中です。

* * * *
 明日どうなるかですよ。僕は納税者をなめた役所や議会、色んな各種団体、業界団体、既得権といわれている人達、納税者をなめたら全部つぶされるよってことを明日示したいと思いますね(拍手)。汗水流して働いて納税をして、そのお金が天下り団体や職員の給料に消えて・・・皆さん、これ知らなかったらね、バカみたいですよコレ。そんなこと許しちゃいけないんですよ。許しちゃいけない(拍手)。納税者の税金はね納税者のために使うなんて当たり前のことなんです。日本の政治はね、納税者をなめすぎ。特定の団体、特定の有力者、特定の業界団体、そんなところから票をもらって見返りで色んな補助金を打つ。そんな政治はほんとに腐ってると思いますよ(拍手)。どうか皆さん、そのためにもね、明日大阪都構想住民投票で何とか勝たせてくださいよ。そうしましたら大阪府庁大阪市役所、大阪市議会、それにへばりついてる、色んな税金を食らっている――そんな団体を一回きれいさっぱりに全部壊して、ほんとに納税者のためになる、新しい大阪の新しい大阪の政府を作っていきますよ、皆さん。今度は維新の党、国会議員いますから、火の玉となってね、既得権益層に切り込んでもらって、皆さんの納税者の税金を取り戻すことを維新の党でしっかりやります。
 その代わり明日負けたら、まぁホントだったらコレ、ボク死ななきゃいけないんでしょうけど、まぁ民主主義の国ですからね。まぁコレはまぁ、政治家やめるっていうところで許してもらいたいと思うんですが(辞めないでーの大合唱)。まぁでもね、ホントだったらね、いくさだったらお前死ねよといわれるんでしょうけど、そこはちょっと申し訳ありません。まぁでも、ホントにここまで皆さんのお力でホントにここまでやらさしてもらったことは政治家冥利に尽きます。何の組織もなくお金もなく、こんな偉そうに政治家できてるのはすべて皆さんのおかげ。ホントにホントに感謝を申し上げます。ホントにありがとうございます(大拍手)。
 明日、最高の舞台を皆さんに用意して頂きましたので、納税者の皆さん、明日5月17日、大阪都構想の実現だけでなく、皆さんの税金を貪り食ってる連中を一回たたきつぶして税金を皆さんに取り戻すという、そのスタートを明日5月17日に切っていきたいと思います。ボクは大阪がホントに自ら変われると、変わることができるとボクは信じていますし、大阪市民の皆さんが大阪を変えることに動いてくださると信じています。どちらが勝つかの大いくさ、ぜひ勝利をおさめましょう。ホントに明日が大勝負、がんばりますんで、一緒に力を合わせて頑張っていきましょう。
* * * *

 内容的には既得権益を一掃するために賛成票を入れてくれ、というのが主旨ですが、理屈としてかなり変だなと感じました。府庁、市役所、議会などの腐敗に関する憤りを述べたのはいいのですが、まずそう決め付けた証拠や根拠はあるのかどうかが演説では分かりませんでした。もし嘘だとしたら関係者に対する名誉を著しく毀損していることになります。また、政令大阪市を廃止して権益の一部を大阪府庁に移すことと腐敗撲滅と一体どういう関係があるのか理解できません。仮にシロアリがいたとしても、大阪市にたかっていたシロアリが大阪府に移るだけで全体の数は変わらないはずですので。それとも大阪市にだけ利権構造が渦巻いていて、大阪府は清廉潔白だと言いたかったのでしょうか。そもそもどんな団体でもシロアリ退治には罰則強化や透明性向上など、「倫理規程」の改正などからじっくりと進めていくのが正攻法で、高々シロアリ程度でいきなり家をぶっ壊して何もかも一から建て直そうとするやり方は如何なものかと思います。

 そういえば菅官房長官が、大阪市役所の人数が多すぎると発言して維新にエールを送ったことがありましたが、あれも市役所にお勤めの人を悪者に仕立て上げて市民の憎しみを駆り立てる、質の悪い同様の手法でしょう。あまり知られていませんが、住民票を持つ人数当たりの職員数で自治体間を比較してもあまり意味がありません。問題は昼間人口の多さだからです。特に市電やバス、水道施設の運営などに従事する現業職員の業務量は昼間人口にもろに影響してきます。大阪市は昼間に人が満ち溢れる町ですので、より多くの職員が必要なのは当たり前の話で、大阪市役所で地道に働いている大多数の職員さんを不当におとしめては可哀想だと思います。(ちなみに横浜市のようにアウトソーシングを増やせば大阪市の職員数ももっと減るでしょう。)

 それからもう一つ。「明日負けたら、民主国家なので死にはしないが政治家をやめるってとこで許してもらいたい」というくだりですが、予想していたとはいえ、やはり首を傾げてしまいました。政治家というのは自分が進めた政策が失敗したら腹を切るくらいの覚悟が必要だと思います。なぜなら過去の経済政策を見てもわかるように、政策パワーというのはとてつもなく大きいもので、一般の庶民の生活を破滅させ自殺に追いやったり現実に命を奪うことになりかねないからです。橋下市長がいうように反対派の話はすべて「デマ」で、大阪都構想にこれほどの自信を持っているのであれば、続けてこういうべきでした――。
もし大阪都構想をやって大阪市民がひとりでも不幸になることがあったら、ボクはいつでも命を絶つ!
 この覚悟があって初めて、人の命を左右する政策を推し進める資格を市民から認めてもらえるのではないでしょうか。

 

 以上、橋下市長ラスト演説と私なりの感想をつらつらと書いてみました。5月17日の投票が大阪市民の方々にとって「おトク」な結果となりますよう、心から祈念いたします。(黒猫翁)

大阪都構想の投票で勝つために両陣営がやるべきことは何でしょうか

一例として下のグラフをご覧ください。

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 黒線は大阪市の人口の年齢構成、ピンクの線は昨年3月の大阪市長の出直し選挙で実際に投票した方の年齢構成を示しています。(大阪市ホームページの統計資料より作成)

 これによると大阪市には40台以下の方々が比較的多く居住しておられることが分かります。ですので、ごく普通に考えれば20代~40台の若い世代を念頭に選挙活動をしていれば一番効率がいいことになります。
 ところが実際の投票行動ではまったく違った傾向が見えてきます。つまり、人口が比較的多い年齢層は実際には投票場へ足を運んでくれないのに対して、人口が比較的少ない年齢層(60代、70代)の投票率は異様に高く、これらの層の方々の決断が投票結果にきわめて大きな影響を及ぼしているということです。もちろんこうした傾向はどんな選挙でも日本全国ほぼ同じで、特に珍しいことではありません。選挙演説になると必ずと言っていいほど「おじいちゃん、おばあちゃん」という言葉を連呼する候補者が多いですが、あれは高年齢層が当落のカギを握っていることを知っているからだと思います。

 問題はこれが大阪市長の出直し選挙の結果だということです。このときは維新以外の大きな党からは候補が出なかったこともあり投票率はなんとたったの24%、大阪市有権者210万人中50万人しか投票しませんでした。自民・公明・共産などの支持者を含め大半の有権者は投票所に足を運んでいません。

 また、50万票のうち8割近い票(38万票)は橋下徹氏が獲得しています。これは何を意味しているかというと、この選挙で投票した人というのは、偶然にもほとんど維新の党支持者のみだった、という点です。つまり維新の実質動員数(=支持者数)は38万人といっても当たらずとも遠からず――ということになります。(そうすると上のグラフのうちピンクの線は、大阪市民というよりは維新支持者の投票傾向を示していると言った方が事実に近いといえます。)

 もちろん橋下氏が勝つに決まっている選挙でしたので政治心理学でいう「離脱効果」が働いて、かなり得票数を減らしている可能性はあります。それを勘定に入れると、大阪市内における維新の潜在的な支持者数はおおよそ50万人、すなわち大阪市有権者の4分の1程度と考えておけば、まぁまぁ保守的な数字ではないでしょうか。だとすると、反対派が勝つためには最低限これを上回る得票が必要になりますので、両方合わせて100万票以上――つまり投票率が5割を切る選挙では反対派に勝ち目はないことになります。
 
◆予想される維新の今後の戦略

 38万人は支持者というより信者に近い方々ではないかと思います。なぜなら橋下氏の対立候補は組織票をまったく持たず(失礼ながら)泡沫的な存在だったにもかかわらず、あえて投票所に足を運び橋下氏にトドメの一票を入れようという方々ですから、ある意味浮わついたところがない60代、70代を中心とした絶対支持層だと想像できるからです(グラフからも想像できますね)。

 橋下氏のことを「徹ちゃん」と囃し立て有形無形の支援をいとわない絶対的コア層――まさに思考停止したまま妙な新興宗教にはまっている高齢の信者たちとイメージが重なる部分がありますが、今回の5月17日の投票でも彼らは必ず賛成票を入れるでしょう。橋下市長にとっては有難い話だと思います。

 ただし、こうしたコア層の投票率を今以上に上げることは難しいかもしれません。コアが硬ければ硬いほどさらに硬度を上げるのは普通は困難だからです。むしろ気をつけなければならないことは橋下氏のスキャンダルなどで信者の「信仰」が崩壊してしまうことです。たとえば、都構想をめぐって事業者から多額のワイロを・・・なんて記事がスッパ抜かれたら、マインドコントロールから解放されてしまう人が相当出てくるでしょう。いずれにしてもコア層で今以上に票を増やすのは難しそうです。

 賛成票を増やす余地があるとすれば20代、30代の若い世代ですが、こちらはインターネットを日常的によく見ている世代であり、事実関係は割と正しくつかんでいる人も多いと思われますので、ちょっと扱いにくい層です。維新の党のプロパガンダはネット上でその欺瞞性がかなり宣伝されていますから、事実関係に深入りすれば逆にどんどん得票が減っていく可能性が高いです。そこをなんとか投票所へ足を運んでもらうためには、彼らにとってトクになるサービスやプロジェクトをブチ上げる必要があるでしょう。

大阪都構想が可決すれば、20~35歳の特別区民に対して年間1~2万円の生活補助、転職や結婚祝い金など、将来を担う若者を全面支援します!

などと突然言い出すかもしれませんね。支出が少し増えた分は大阪府から特別区への分配をこっそりと減らせばいいだけですから維新としては笑いが止まらないでしょう。バカバカしいですが票は増えると思います。

 あと考えられるのは、旗幟が曖昧な公明党と取引をして組織票をもらうことです。こちらのほうが現実味があるかもしれません。国政の動きとからめればたぶん可能ではないでしょうか。公明党の組織力は衰えているとはいえ、巨大政党の自民党ですらアテにしているくらいですから、この取引がもし成立してしまえば、おそらく維新の党は一気にシーソー状態を解消し今回の投票に勝つことができるはずです。もちろんその場合、公明党は未来永劫、大阪市民から敵視され憎まれる存在になりますので、同党としても相当の覚悟が要ると思います。いずれにせよ、タレントの久本雅美さんとかがいつの間にか応援演説をするようになったら、大阪市が解体される可能性が一段と高まったことのサインだと思って間違いないでしょう。

 とにかく橋下市長にとっては今後の政治生命がかかっていますので、何がなんでも勝とうとしてくるでしょう(まさか「地方自治はやめるといったが国政はやめるとはいったことがない」などというみっともない言い訳はしないでしょう)。昔、仲の良かったタレント(まさかの島田紳助さん?)とかも総動員してくるかもしれません。事実関係を争うことはまず勝ち目がないので、得意のレッテル貼りでイメージ的に一本取ってあとはサラッと流すはずです。そして「維新の側が劣勢である」とやたらめったら宣伝するでしょう。百回でも千回でもいうでしょう。こんな人たちから大阪市の自治を守るのは容易ではありません。

 

◆反対派の今後の戦略

 一言に尽きますが、今のままで変える必要はないと思います。インターネットは若者~50代くらいの層にとって相当の情報提供のツールになっているはずですし、新聞の世論調査によれば全体的な事実関係の理解が前よりもかなり進んでいるようです。もちろんイメージも大事ですので、事実と反しない範囲で有権者の心に残る言葉は必要でしょう。ただしそれは政治家がやってくれるはずです。

 また、藤井先生らが5月9日、10日に行った学者説明会は私も動画で拝見しましたが、藤井先生だけでなく森先生、河田先生、冨田先生、薬師院先生等々の明快な説明は示唆に富んでおり非常にためになりました。できるだけ多くの大阪市民の方々が忙しい時間を割いてこれを見て欲しいと思いましたが、如何せん、大手マスコミの紹介記事が11日現在ほとんどないことが残念でなりません。特に今回のような投票の場合、「事実関係」を広めることがマスコミの義務ともいえるわけですから、もし大阪市解体が決まってしまったらこうしたマスコミの間違った姿勢は大阪市民全員だけでなく投票を見守る国民から長く糾弾され続けるでしょう。誤魔化せると思っているかもしれませんが、みんなちゃんと見ています。

 要するに反対派のとれる戦略というのは特に変わったものでなく、まずは正しい事実をできるだけたくさんの有権者に知ってもらうことです。その上で、維新側(というか橋下市長自身)が演説などで話している内容のカウンターパンチを丁寧に打っていくことだと思います。たとえば「反対派の先にはなに(対案)もない」と言われれば

「都構想があまりといえばあまりにも酷いので反対している。都構想と対案のどちらがいいか、という問題ですらない」

「悪いところは改めながら、他の政令市と競争しながら成長していくのが王道だ。総合区の導入、府市協議の法令化、各種プロジェクトの推進などによって今後大阪は政令市の強みを活かしたまま大大阪市へと発展していく」

「王道の対案が都構想だとすると笑止千万。ナベやカマまで吸い上げられた中央集権時代にむりやり作った東京都の特別区体制を今の時代に真似して一体どうするのか?」

「都構想は議会で一度ボツになった、大阪市を弱体化するものであり住民投票に値しないほどの愚策であり、論外である。反対票を投じなければこの愚策が採用されてしまい、そしてもはや元にもどることはない」

などです。

 

◆最後に

 5月11日の朝日新聞朝刊に出ていた「大阪市民世論調査」の結果で、ちょっと信じがたい数字が出ていたことを紹介します。

大阪都構想をめぐる賛成派と反対派のこれまでの意見を聞いて、大阪都構想についての理解がどの程度、深まりましたか

という質問に対して、「大いに&ある程度、深まった」という人が47%でした。

 大阪都構想というのは、2010年に大阪維新の会が大々的に打ち出してからもう5年以上も経っています。それなのに理解が深まった人は半分にも満たないのですから、これは驚き以外何物でもありません。それどころか協定書の中身が本当に知られるようになったのは藤井氏が「7つの事実」を公開しサイトでいろんなことを説明し始めてからですから、いってみればついこの間のことです。それまでの5年間、維新という政党は一体なにをしてきたのでしょう。不思議としかいいようがありません。
 同党がやってきたことは、グラフの目盛を途中から伸ばしてあざとい捏造をしたり、二重行政解消で4千億円も浮くなどというデタラメを吹聴するなど有権者を騙し続けてきただけではないのでしょうか。そして一度廃案にされた都構想を非民主的な手法で住民投票にまで持ち込み、事ここに及んでもいまだに本当の事実を真摯に説明することなく、高齢者をターゲットにしたプロパガンダを続けているとしかいいようがありません。
 最後に一言、投票を1週間後に控え、ちゃんと理解できている人が有権者の半分にも満たないというのが新聞の調査結果ですが、こんなお寒い状態でホントに「多数決」なんかで物事を決めてもいいのでしょうか? 学級委員会じゃないのですから、もし1票差で政令大阪市が廃止されることになったら、真っ二つに分かれた大阪市域の人々は一体どうなってしまうのか、ぞっとするくらい心配になります。

 21世紀の時代、先進国のはずの日本で赤っ恥の住民投票が行われようとしていることに眉をしかめつつも、(個人的な友人も多い)大阪市の人達が今後イバラの道を歩むことのないよう、心からお祈りしています。(黒猫翁)
 

大阪都構想の投票までに言うべきことは言わないといけません

 久しぶりのブログ――。
 藤井氏の最近のご著書「大阪都構想が日本を破壊する」を読みました。維新の党のHPなどでこれまで主張してきたことが完全に論破されており、事実関係としてはこれで「勝負あった」というべきでしょう。(もっとも維新の党はこれまでも藤井氏の7つの事実に対して理性的な反論を何ひとつ行っていませんので、勝負開始のゴングすら鳴らされていないというのが実情ですが・・・)
 さて、こういう状況の中で、協定書の賛否を問う投票まであと2週間をきりました。事実関係だけで投票結果が決まるのであれば大阪都構想はすでに廃案入りしているといってもいいのでしょうが、残念ながら投票というのは必ずしも理性的な判断だけが反映されるとは限りません。
 ましてや橋下市長は、大阪知事選、府市ダブル選、市長出直し選という難しい選挙をすべて勝利してきた選挙活動のプロフェッショナルです。政策の内容がどんなに稚拙であっても、また、建設的な議論がいかほど苦手な人だったとしても、こと壇上に立ったときの演説のうまさにかけては右に出る者がいないといっても過言ではありません。大阪という土地柄も、私の経験上、それこそ「エモーショナル」な感覚で物事を決める傾向がありますので、これから投票日までに各陣営が行う演説やテレビ番組などのイメージ戦略の良し悪しが結果を左右するでしょう。
 いきなりですが、もし私が維新の党の支持者だったら――という仮定で、橋下市長用のキラー演説(笑) の草案を作ってみました。投票の前日に行うバージョンです。

*  *  *  *

もうみなさん、明日の投票。新聞、テレビでは五分五分なんていってますが、あれは嘘です。明日、大阪都構想ははっきりいって負けます。(ここで支持者の笑い声を入れる)
 だってそうじゃないですか。僕がひとりであちこち回ってタウンミーティングを開いたりして地道な努力を続けているのに、反対派のほうは「売名目的の一部の学者」と「自由民主党共産党などの巨大組織」が結託して僕ひとりを攻撃してくる。そして人数にモノをいわせて、色んな場であることないことを言い触らしている。昔クラスに一人や二人必ずこんなヤツいましたよね。嫌いな子の悪口をこそこそクラス中に言い触らすヤツ。これにコロッと騙された人はつい反対票を入れちゃう人も出てくるでしょう。これはね。もう僕一人の力ではどうしようもない。だから明日は負けます。そして大阪都構想という改革は永遠に姿を消します。(ここで女性の支持者の「負けさせなーい」という声を入れる)
 僕が頭にくるのは、都構想に反対している人達のやり口です。彼らに共通していることは「まったく議論しようとしない」ことです。僕はタウンミーティングをこれまで○○回行っていますが、とにかく彼らは一度も来たことがないですよ。ただの一度もですよ。議論から逃げ回っている。それなのに僕が反対意見を封じようとテレビ局に圧力をかけているなんていっているバカな学者がいます。誰とはいいませんけど、この人ホントに学校の先生なんでしょうか? こんなくだらないデマを信じちゃいけません。よく考えてください皆さん。いろいろと酷い事を言われますけど僕は単なる市民の代表ですよ。「市長」だなんて偉そうな名前ついてますが結局のところ皆さんの下僕にすぎないんです。一方で彼らは、誤報や捏造で莫大なお金を稼いでいるテレビ局であったり皆さんの税金を年間5千億円ももらっておきながら偉そうに踏ん反り返っている国立大学法人の教授です。あまりにも巨大な組織。彼らから見たら僕なんかホントに微々たる存在なんです。そんな人間が圧力なんてかけられますか。たった一人で孤軍奮闘している市民の下僕にすぎない僕がたくさんの巨大組織を向うに回して圧力なんてかけられると思いますか皆さん。(支持者の笑い声を入れる。「テレビ局と大学を叩きつぶせ~」という声を入れる)
 僕は反対意見は歓迎します。これは物心ついたときからの僕のポリシーです。だけど反対意見があるなら正々堂々と議論して欲しい。僕がお願いしたいのはたったそれだけのことなんです。(支持者の拍手喝采。)
 残念ながら明日は、都構想に反対する人達にとっては歴史的な大勝利となるでしょう。逆に都構想という改革によって大阪を輝かせようと地道に努力してきた――僕たち維新の党ははっきり言って完敗します。ついでに僕という政治的存在もこの世から消えてしまうかもしれません。これはね、前に約束したことだから絶対に守ります。もしこの投票で負けたら僕はいさぎよく政界から引退します!(女性支持者の「辞めないでー」という声を入れる)
 それでもね、はっきりいって僕なんかの小さい人間の勝ち負けなんてそんなもんどうでもいいんですよ。大事なことは「大阪という街」が負けることがあってはならない、ということなんです。たとえ投票で残念な結果になろうとも「大阪を変えるんだ」という気持ちを失ってしまったら本当に終わりなんですよ皆さん。圧倒的多数の組織票ですので多勢に無勢かもしれませんが、それにたった一人で立ち向かう僕に少しでも共感を覚え、そしていつか必ず大阪都構想を実現させたいと思われた方は、ぜひ投票用紙に賛成と書いて頂きたい。これはコソコソと陰口を言い触らしている反対派のマジョリティの人たちに対する強い意思表示になります。そして何より、「橋下というしょうもない男はこの投票で消えたけど、大阪を変えようとしている人間はまだまだこんなに居るんだ!」という僕ら大阪人の心意気を、投票結果を見守る全国の人々に見せつけてやろうではありませんか。一矢報いてやりましょうよ皆さん。僕にとってこれがホントに最後になるかもしれませんが、大阪市にお住まいのおじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、そしてこれからの大阪を担う若い方々が皆手を取り合ってこの大阪を盛り上げてくれることを心から期待しています。本当にご静聴ありがとうございました。(支持者の「賛成票を入れるぞー」という声、拍手喝采)
*  *  *  *

 (書いていて自己嫌悪に陥りそうでしたが・・・)都構想や協定書の内容のことにはまったく触れず、「卑劣な反対派の集団に囲まれながらも孤軍奮闘している自分」という絵姿を作って、エモーショナルな同情をかき立てる戦術をとるとこんな感じになります。事実じゃない事ばかりを並べ立てていますが、投票日に近づけば近づくほど、演説の内容の真贋は確認のしようがなくなりますので、すぐ分かる嘘でなければいくらでもホラを吹けます。
 実はこの草案は、昨年12月の解散総選挙の前日に橋下市長が行った街頭演説を下敷きにしています。これは「維新の党の敗北宣言演説」といわれているもので、いっとき神演説としてすごく有名になりました。この自虐演説?によって維新の党は総選挙で惨敗を逃れたとされており、その判官贔屓効果は実にすさまじいものがあったようです。維新の党は今回の投票でもこれを使ってくる可能性があると思いましたので、例としてご紹介した次第です。なお、肝心の協定書等の事実関係については、維新の党から言及するにしてもおそらくサラッと流してくるでしょう(本当のことを事細かに言い出すと正真正銘の「自虐」になってしまいますので・・・)。
 
 一方、反対派としては投票までの活動でどのような振る舞いをすべきでしょうか。私としては、あくまでも事実を誠実に訴えることが有権者の正しい判断を下支えするのだと信じています。「嘘も方便」とばかりに市長の演説を真似ても橋下氏ほどうまくはやれないでしょうし、へたをすると言葉尻を捉えられて逆効果になってしまう場合も考えられます。嘘をつく(≒真実をあえて言わない)ことに慣れていない人は「呼吸するように嘘をつく人たち」の土俵に乗ってはいけません。
 また、少し前のアンケート結果で、「反対だけど投票には行かない」という人がかなり多かったことがもう一つの理由です。こうした層には、大阪都構想の胡散臭さをなんとなく感じているが事実関係を知らないことからコトの重大性を理解できていない方々が相当数含まれていると思います。ですので、もし彼らが正しい事実を知り、この投票が三途の川の分岐点であることを理解されれば、反対票を投じる可能性が高いのではないでしょうか。
 事実関係をきちんとお伝えするとしてどんな点を強調すべきか、いくつか列挙してみました。

(1)今回の投票が「政令指定都市である大阪市」を廃止してもいいかどうかを問うものであって、可決されれば実際に廃止されてしまうこと。
【政令市になると財源や権限が増え住民がトクをする⇒全国の市町村はみんな政令市にランクアップしたがっている⇒こんなにメリットがある政令市をよりによって「市」自身が廃止したがっている例は過去にひとつも存在しない等々】

(2)政令市が廃止され、不完全な基礎自治体である特別区の住民にランクダウンされてしまうと、住民は必ずソンをすること。
【間違いなく財源は不足し、大型開発は見送られ、福祉サービス(老人福祉、子ども医療費補助)など身近なサービスも当然削減の方向へ行く⇒現在日本で唯一の東京の特別区は他の市町村より権限が制限されており、皆、元の東京市に戻りたいと思っている⇒特別区民になってトクすることなど一つもない】

(3)今の協定書の内容に瑕疵があったとしても、いったん可決されてしまえば修正されることはなく決して元には戻らない。そのため少しでも疑問が残るのであれば実際に反対票を入れ、とりあえず今の協定書をストップさせる必要があること。
【否決されれば将来的に大阪を衰退をストップさせる別の改革案が立案・実行される可能性は残るが、可決されてしまうと協定書というアルゴリズムが発動、ただちに政令大阪市が解体され、ほぼ未来永劫、元の鞘に戻ることはない】

(4)これまでの某政党による宣伝と違いすぎるため、にわかには信じがたいと思うが、府と市の二重行政による無駄など現実にはほとんど存在しない。このことが府市協議会や市役所での専門的な検討で明らかになっていること。
【二重行政解消の効果は、昔は適当な計算で4千億円と謳われてきたが行政の専門スタッフが何度も調べ直した結果、実際には1億円程度の効果にしかならず、都構想移行のコストを考えると逆に年間13億円の赤字になる⇒都構想のメリットなど何もない】

(5)維新の党が盛んに宣伝する都構想のビジョンが、実際は都構想と無関係のものであること。
タウンミーティングなどでたとえば湾岸区にリゾートやカジノ施設を誘致するとし、これこそが都構想だと宣伝しているが、事実は政令大阪市を解体しなくても普通に進めることができる開発案件の一つにすぎない⇒無関係のものを見せて射幸心を煽る非常に質の悪い行為(ちなみに詐欺犯罪でも同様の手口を使う場合がある)

 

 それにしても、維新の党が専門的見地からは「論外」ともいえる大阪都構想を強力に進めているのは一体なぜなのでしょうか。想像も含め、荒唐無稽にならない範囲でつらつらと考えてみました――。

 

・二重行政解消による財政効果と都構想移行コストは、行政スタッフによる詳細レベルで既に結論が出ており(=差引で年間13億円の赤字)本来は構想としてすら生き残れないレベル。
・協定書が発効されたとすると、旧政令大阪市の財源だった分のうち年間2200億円大阪府に吸い上げられることになるが、このこと自体、旧大阪市の住民にとっては自由裁量のお金が減るためデメリットにしかならない。
・ところが大阪府としては自由に裁量できるお金が増える。特に大阪府は現在「起債許可団体」に指定されているほど財政状態が悪いため、2200億円の一部を赤字補填に活用できることは非常に魅力的。この額は都構想移行による年間13億円の赤字を補って余りある収入となる。
・したがって大阪都構想とは、大阪市の住民から吸い上げた莫大な税金を大阪府の赤字補填に用い、大阪府の財政健全化を進める抜本的方策といえる。問題は旧大阪市民のサービスが確実に低下し住民の不満は増大するが、これは地域が特別区に分割され「住民代表(=区長)の力」が大幅に削がれているため、府知事によるコントロールが容易である。
・さらに都構想の一環として(無理筋な)民営化や(不自然な)企業誘致を進める。これはいわゆる広義のレントシーキング(公共的業務を民間に開放すること)であり、政治家や推進者たちに有形無形の便宜供与の機会を与える。[典型例は、太陽光発電の固定価格買取制度、電力の発送電分離]

 

 まぁ大阪府や潜在的な利害関係者にとってはすこぶる美味しい話です。ですが仮にも大阪市民の税金でゴハン食べてる人がこれをやっちゃいけません。市民に対する重大な裏切り行為にもなりかねない話で、もし協定書が可決され、将来、大阪市域に住む住民がソンをする事態になったら「自分たちが決めたことだから仕方がない」と素直に納得してくれるでしょうか。人間ですからそんなことはあり得ないでしょう。おそらく法律で定められた事実の説明を故意に行わなかったとして当時の推進者に対して憎悪の目を向けるかもしれません。どんな形になるかはわかりませんが想定外の議論につながる可能性があることは容易に想像がつきます。都構想というのは地方自治史上最悪といっていいほど筋の悪い政策なので、大阪市有権者はくれぐれも軽い気持ちでスルーしてはいけません。5月17日の投票――大阪市にお住まいの方々におきましては、ぜひ正しい決断をされ、投票所に足を運んで頂けたらと思います(黒猫翁)

 

【経済】第一の矢「異次元の量的緩和」はホントに効いているのでしょうか?(3)

 前回までは、日銀の異次元緩和によってマネタリーベースを爆発的に積み上げているにもかかわらず市中のマネーストックは一向に増えず、各銀行が持っている日銀当座預金にどんどんお金がブタ積みされている――という現状をお話ししました。
 信用創造が働かなければ実体経済の“温度”は変わりませんので、その意味でいうとアベノミクス第一の矢は本来の目的としては完全な空振りだといえます。しかし、第一の矢で大きく動いた経済構造が一つあります。それは超絶ともいえる円安化、すなわち急激な通貨価値の下落です。

 

◆為替レートの推移は「読める」のか?
 ある程度年配の人は為替レートというとソロスチャートを思い浮かべます。その国のマネタリーベースと金利を関数として表された為替レートの推定式のことです。昔はかなり精度がよくて売買によく利用されていました。ところが一時からほとんど合わなくなりました。日本だとデフレ突入の時期あたりとちょうど符合しているかもしれません。その後、マネタリーベースではなくてマネーストック的なパラメータに変更した「修正ソロスチャート」が提唱されると割と一致するようになりましたが、それもつかの間・・・また推定と実績に乖離が出ているようです。最近ではビックマック指標とか購買力平価の云%以内で推移するとか色々な新説が出ているようですが、あまり的中しているものはありません。結局のところ為替に影響するパラメータが多すぎて精度のよい推定は難しいのだと思います。たとえば日銀が国債を買うと(非公開で・・・)示唆しただけで何故か次の日に為替市場が反応し円安に振れるという現象も耳にします。要するに大規模でしかも表に出てこない大規模集団(特に外国人)が緻密な情報網を張りながら、あらゆる条件の変化を即座に判断してアルゴリズム的に売買しているのではないでしょうか。そうした外人プレイヤーは当然複数存在し、それぞれが別々のアルゴリズムを持っているわけですから、なかなか学校の経済学のような美しい公式はできないわけです。
 しかし今までのところマネタリーベースを増やすとまずは円安方向に振れるというのはとりあえずの公式のようです。現在のアルゴリズムがそう作られているのかもしれません。円を増やすと円の価値が下がる――たとえ緩和マネーが日銀の当座預金でブタ積みされたとしても為替市場のプレイヤーたちが「少しの時間差で市中に出回るはず!」と判断したらやはり円は安くなるのです。

 

◆第一の矢は純輸出を伸ばしたか?
 円安になって日本経済が助かることといえば何かといえば、それはいわずとしれた「輸出」でしょう。これがおそらくアベノミクスの2番目の目的(マネーストック上昇が一番目)だったと思います。実はこの目的はある意味達成されています。下にグラフを掲載しました。

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 2002年あたりから米国需要の恩恵を受けた「いざなみ景気」で輸出がいい感じで上がり、2008年のリーマンショックでどん底に落ちたことが分かります。その後伸び悩みが続きますが、アベノミクスの実施が決まって円安が進んだ時期(2013年~)は輸出がかなりの傾きで上昇しています。ただし長期デフレの影響で海外需要に視点を移した製造業は輸出型から現地製造型に構造転換してしまっていますので(オフショアリング現象)、輸出の増加も爆発的とまではいかず、安倍内閣としてもやや期待外れだったでしょう。とはいうものの一定の輸出の伸びを実現することはできた意味で日本経済にとって嬉しいことでした。
 「輸入」のほうはリーマンショック後、「輸出」より少し低めで推移していましたが、2011年第1四半期以降、輸入単独でぐんぐん増加していきます。これはあきらかに2011年3月の福島原発事故の影響です。つまり事故発生直後から日本の発電構成が、輸入割合がほとんどゼロの「原発」から油をドカ食いする「火発」にすっかり置き換わってしまい、油の購入総量が爆発的に増えたわけです。このあたりから輸出額から輸入額を引いた「純輸出額」――これがGDPに計上されます――がマイナスに突入しています。
 さらに2013年からは異次元緩和による円安で油の購入単価自体が上昇し、購入総量とのダブル増により物凄い勢いで輸入額が増えていきます。せっかく輸出が着々と増えているのにもったいないことです。要するに、アベノミクス第一の矢で期待していた第2の目的(円安効果)は、純輸出の増加という観点でみる限り残念ながら失敗といわざるを得ません。もちろんこれは現政権が悪いというよりも、そもそも全原発の停止という世界でも稀に見る大失政をしでかした民主党前政権にほとんどの責任があると思います。

 

◆第一の矢の円安効果はなかったのか?
 純輸出が増えないことにがっかりした人は「第一の矢はやはり失敗か・・・」と自暴自棄になり、政策自体をすべてを否定しがちです。しかし円安効果はそれだけではありません。その効果が大きいか小さいかにかかわらず、偏りのない視点できっちりと評価すべきではないかと思います。

(1)輸出需要の増加による生産誘発効果
 輸出(や公共投資)をするとその企業だけではなく、原材料を供給する会社や事務所サービスを提供する会社など――関連するたくさんの会社の注文が増えて生産が誘発されます。これを生産誘発効果といい、最近の産業連関統計(2005年)では輸出の需要を1万円増やすと国内全体で生産が約2万円増えることが分かっています。
 円安が進んでいるときに、国内企業が海外への出荷数を変えず為替差益だけを享受する場合、国内製造数は変わりませんから他産業への生産誘発効果はありません。しかし、海外市場での販売価格を据え置いた場合、通常は出荷量が増え、国内での生産誘発が起こります。アベノミクス期である2013年以降の統計はまだ発表されていませんので定量的には分かりませんが、円安効果として日本経済にプラスの効果を生じさせていることは確かです。
 なお、安倍総理東南アジアなどに新幹線やインフラの輸出を推進していることは有名ですが、これなどは「純輸出」を増やすだけでなく、国内に巨額の生産誘発を生じさせるものとして注目に値します。

(2)キャピタルゲインによる資産効果
 安倍総理がしきりに主張しています。誤解を恐れず言い切ってしまえば、いわゆる株式売買による利益(キャピタルゲイン)の話です。資産効果といわれています。日本の株式は外国のトレーダーが売買の大半を占めていますが、彼らは円安になれば買い注文を増やし、円高になれば逆に売ります。ファンダメンタルがどうのこうの等ほとんど知ったこっちゃない――いわゆる「投機」を生業としている集団ですね。ですので、大まかにいうと円安になれば株価は上昇していきます。アベノミクス第一の矢で株価がぐんぐん上昇しているのはこのためです(たまに市場がアベノミクスを歓迎している云々、とかいう記事を見かけますが、あれは利害関係者のポジショントークでしょう)。
 いずれにせよアベノミクス第一の矢によって日経株価は上がっており、株式を売り買いしている人のキャピタルゲイン以下「あぶく銭」という)は増加しています。あぶく銭が増えると人はその分消費を増やすでしょう。その増加分の割合を限界消費性向といいますが、実際に日本国民はアベノミクス期で儲けたあぶく銭をどれだけ消費に回したのでしょうか。定量的に論じているものはほとんどないのですが、なんとか以下のようなページを見つけました。

https://www.mof.go.jp/pri/research/discussion_paper/ron263.pdf

 アンケートによって、「あぶく銭の2.2%を消費に回した」という統計結果が得られたとのことです。これを基にすると、アベノミクス期の消費支出の増加額4兆円のうち20%の8千億円があぶく銭の増加によるものだそうです。もちろん、これはせいぜい1万人を対象としたアンケートに基づくものですし財務省の外郭団体から公開されているものですので如何ほど信用できるか分かりませんが、当たらずとも遠からず、と考えておけばいいでしょう。少なくともアベノミクスの第一の矢によって数千億円程度の消費支出を増やしたというのは事実ではないかと思います。GDP500兆円に対するわずかなプラス効果はあったということです。
 なお、安倍総理は国民に株式投資を推奨していますが、あれは如何なものでしょう。アメリカ国民の可処分所得に対する株式投資比率は半端じゃないくらい高く、それが米国の量的緩和期の消費をある程度下支えをしたことはよく知られていますが、それを日本国民に真似させようというのはどこか間違っているような気がします。

 

◆就業率を増加させたかどうか?
 量的緩和などの金融政策は失業率や就業率を改善させるといわれています。実際のデータを見たいと思います。

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 就業者総数は大体アベノミクス期にぐんと伸びています。これをもってアベノミクス、特に第一の矢の成果だと主張する人は割と多いようです。たまたま次のようなページを見つけました。

脱藩官僚いろいろ。古賀茂明さんの「『報ステ』内幕暴露」で考えたこと | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社]

 ところが本記事のグラフをご覧になると分かるように、65歳以上の就業者を除くと、就業率は政権交代とかアベノミクスの実施に関わらずまったく上昇していません。これは何を意味しているのでしょうか。
 これはちょうど団塊世代が大量に65歳になったことと民主党政権時に進めていた高齢者雇用の政策によるものです。2013年度から高齢者雇用安定法の本格施行に伴って、その少し前から65歳以上の雇用などに対する助成金制度が厚労省から続々と打ち出されてきたのが原因です。残念ながらアベノミクスには何の関係もありません。

 

◆第一の矢のまとめ
 生産誘発や資産効果はそこそこあったと思われますが、効果はやや小さすぎて現在の日本のデフレを脱却できるようなインパクトには到底届かなかったというのが現実です。雇用の上昇にも貢献できませんでした。また純輸出は期待されていましたが、こともあろうか民主党の過去の失策によって台無しにされてしまいました。もちろんこれについては改善の余地があります(今後の原発政策の行く末がカギになるでしょう)。
 しかしながら、アベノミクスの本来の目的は実体経済の温度をぐんぐんと上げ、内需の盛り上がりからデフレを脱却させようというものです。すなわちマネーストックを上昇させることがアベノミクスの神髄であって、周辺の桶屋が儲かる些末な話ばかりしていても埒があきません。アベノミクスとは本来何であったのか――それは第一の矢と第二の矢を「同時並行に進める」ことだったはずです。今日本で行われている経済政策は、(イギリスやアメリカで実質的に大きな成功を収めていないといわれている)金融政策単独の手法であって、現政権がそもそも進めようとしていたアベノミクスと似て非なるものです。(黒猫翁)