黒猫翁の言いたい砲弾

新聞やテレビを賑わしていることについて思ったことを書いていくページです。公開の備忘録?ですかねw

大阪都構想の投票までに言うべきことは言わないといけません

 久しぶりのブログ――。
 藤井氏の最近のご著書「大阪都構想が日本を破壊する」を読みました。維新の党のHPなどでこれまで主張してきたことが完全に論破されており、事実関係としてはこれで「勝負あった」というべきでしょう。(もっとも維新の党はこれまでも藤井氏の7つの事実に対して理性的な反論を何ひとつ行っていませんので、勝負開始のゴングすら鳴らされていないというのが実情ですが・・・)
 さて、こういう状況の中で、協定書の賛否を問う投票まであと2週間をきりました。事実関係だけで投票結果が決まるのであれば大阪都構想はすでに廃案入りしているといってもいいのでしょうが、残念ながら投票というのは必ずしも理性的な判断だけが反映されるとは限りません。
 ましてや橋下市長は、大阪知事選、府市ダブル選、市長出直し選という難しい選挙をすべて勝利してきた選挙活動のプロフェッショナルです。政策の内容がどんなに稚拙であっても、また、建設的な議論がいかほど苦手な人だったとしても、こと壇上に立ったときの演説のうまさにかけては右に出る者がいないといっても過言ではありません。大阪という土地柄も、私の経験上、それこそ「エモーショナル」な感覚で物事を決める傾向がありますので、これから投票日までに各陣営が行う演説やテレビ番組などのイメージ戦略の良し悪しが結果を左右するでしょう。
 いきなりですが、もし私が維新の党の支持者だったら――という仮定で、橋下市長用のキラー演説(笑) の草案を作ってみました。投票の前日に行うバージョンです。

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もうみなさん、明日の投票。新聞、テレビでは五分五分なんていってますが、あれは嘘です。明日、大阪都構想ははっきりいって負けます。(ここで支持者の笑い声を入れる)
 だってそうじゃないですか。僕がひとりであちこち回ってタウンミーティングを開いたりして地道な努力を続けているのに、反対派のほうは「売名目的の一部の学者」と「自由民主党共産党などの巨大組織」が結託して僕ひとりを攻撃してくる。そして人数にモノをいわせて、色んな場であることないことを言い触らしている。昔クラスに一人や二人必ずこんなヤツいましたよね。嫌いな子の悪口をこそこそクラス中に言い触らすヤツ。これにコロッと騙された人はつい反対票を入れちゃう人も出てくるでしょう。これはね。もう僕一人の力ではどうしようもない。だから明日は負けます。そして大阪都構想という改革は永遠に姿を消します。(ここで女性の支持者の「負けさせなーい」という声を入れる)
 僕が頭にくるのは、都構想に反対している人達のやり口です。彼らに共通していることは「まったく議論しようとしない」ことです。僕はタウンミーティングをこれまで○○回行っていますが、とにかく彼らは一度も来たことがないですよ。ただの一度もですよ。議論から逃げ回っている。それなのに僕が反対意見を封じようとテレビ局に圧力をかけているなんていっているバカな学者がいます。誰とはいいませんけど、この人ホントに学校の先生なんでしょうか? こんなくだらないデマを信じちゃいけません。よく考えてください皆さん。いろいろと酷い事を言われますけど僕は単なる市民の代表ですよ。「市長」だなんて偉そうな名前ついてますが結局のところ皆さんの下僕にすぎないんです。一方で彼らは、誤報や捏造で莫大なお金を稼いでいるテレビ局であったり皆さんの税金を年間5千億円ももらっておきながら偉そうに踏ん反り返っている国立大学法人の教授です。あまりにも巨大な組織。彼らから見たら僕なんかホントに微々たる存在なんです。そんな人間が圧力なんてかけられますか。たった一人で孤軍奮闘している市民の下僕にすぎない僕がたくさんの巨大組織を向うに回して圧力なんてかけられると思いますか皆さん。(支持者の笑い声を入れる。「テレビ局と大学を叩きつぶせ~」という声を入れる)
 僕は反対意見は歓迎します。これは物心ついたときからの僕のポリシーです。だけど反対意見があるなら正々堂々と議論して欲しい。僕がお願いしたいのはたったそれだけのことなんです。(支持者の拍手喝采。)
 残念ながら明日は、都構想に反対する人達にとっては歴史的な大勝利となるでしょう。逆に都構想という改革によって大阪を輝かせようと地道に努力してきた――僕たち維新の党ははっきり言って完敗します。ついでに僕という政治的存在もこの世から消えてしまうかもしれません。これはね、前に約束したことだから絶対に守ります。もしこの投票で負けたら僕はいさぎよく政界から引退します!(女性支持者の「辞めないでー」という声を入れる)
 それでもね、はっきりいって僕なんかの小さい人間の勝ち負けなんてそんなもんどうでもいいんですよ。大事なことは「大阪という街」が負けることがあってはならない、ということなんです。たとえ投票で残念な結果になろうとも「大阪を変えるんだ」という気持ちを失ってしまったら本当に終わりなんですよ皆さん。圧倒的多数の組織票ですので多勢に無勢かもしれませんが、それにたった一人で立ち向かう僕に少しでも共感を覚え、そしていつか必ず大阪都構想を実現させたいと思われた方は、ぜひ投票用紙に賛成と書いて頂きたい。これはコソコソと陰口を言い触らしている反対派のマジョリティの人たちに対する強い意思表示になります。そして何より、「橋下というしょうもない男はこの投票で消えたけど、大阪を変えようとしている人間はまだまだこんなに居るんだ!」という僕ら大阪人の心意気を、投票結果を見守る全国の人々に見せつけてやろうではありませんか。一矢報いてやりましょうよ皆さん。僕にとってこれがホントに最後になるかもしれませんが、大阪市にお住まいのおじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、そしてこれからの大阪を担う若い方々が皆手を取り合ってこの大阪を盛り上げてくれることを心から期待しています。本当にご静聴ありがとうございました。(支持者の「賛成票を入れるぞー」という声、拍手喝采)
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 (書いていて自己嫌悪に陥りそうでしたが・・・)都構想や協定書の内容のことにはまったく触れず、「卑劣な反対派の集団に囲まれながらも孤軍奮闘している自分」という絵姿を作って、エモーショナルな同情をかき立てる戦術をとるとこんな感じになります。事実じゃない事ばかりを並べ立てていますが、投票日に近づけば近づくほど、演説の内容の真贋は確認のしようがなくなりますので、すぐ分かる嘘でなければいくらでもホラを吹けます。
 実はこの草案は、昨年12月の解散総選挙の前日に橋下市長が行った街頭演説を下敷きにしています。これは「維新の党の敗北宣言演説」といわれているもので、いっとき神演説としてすごく有名になりました。この自虐演説?によって維新の党は総選挙で惨敗を逃れたとされており、その判官贔屓効果は実にすさまじいものがあったようです。維新の党は今回の投票でもこれを使ってくる可能性があると思いましたので、例としてご紹介した次第です。なお、肝心の協定書等の事実関係については、維新の党から言及するにしてもおそらくサラッと流してくるでしょう(本当のことを事細かに言い出すと正真正銘の「自虐」になってしまいますので・・・)。
 
 一方、反対派としては投票までの活動でどのような振る舞いをすべきでしょうか。私としては、あくまでも事実を誠実に訴えることが有権者の正しい判断を下支えするのだと信じています。「嘘も方便」とばかりに市長の演説を真似ても橋下氏ほどうまくはやれないでしょうし、へたをすると言葉尻を捉えられて逆効果になってしまう場合も考えられます。嘘をつく(≒真実をあえて言わない)ことに慣れていない人は「呼吸するように嘘をつく人たち」の土俵に乗ってはいけません。
 また、少し前のアンケート結果で、「反対だけど投票には行かない」という人がかなり多かったことがもう一つの理由です。こうした層には、大阪都構想の胡散臭さをなんとなく感じているが事実関係を知らないことからコトの重大性を理解できていない方々が相当数含まれていると思います。ですので、もし彼らが正しい事実を知り、この投票が三途の川の分岐点であることを理解されれば、反対票を投じる可能性が高いのではないでしょうか。
 事実関係をきちんとお伝えするとしてどんな点を強調すべきか、いくつか列挙してみました。

(1)今回の投票が「政令指定都市である大阪市」を廃止してもいいかどうかを問うものであって、可決されれば実際に廃止されてしまうこと。
【政令市になると財源や権限が増え住民がトクをする⇒全国の市町村はみんな政令市にランクアップしたがっている⇒こんなにメリットがある政令市をよりによって「市」自身が廃止したがっている例は過去にひとつも存在しない等々】

(2)政令市が廃止され、不完全な基礎自治体である特別区の住民にランクダウンされてしまうと、住民は必ずソンをすること。
【間違いなく財源は不足し、大型開発は見送られ、福祉サービス(老人福祉、子ども医療費補助)など身近なサービスも当然削減の方向へ行く⇒現在日本で唯一の東京の特別区は他の市町村より権限が制限されており、皆、元の東京市に戻りたいと思っている⇒特別区民になってトクすることなど一つもない】

(3)今の協定書の内容に瑕疵があったとしても、いったん可決されてしまえば修正されることはなく決して元には戻らない。そのため少しでも疑問が残るのであれば実際に反対票を入れ、とりあえず今の協定書をストップさせる必要があること。
【否決されれば将来的に大阪を衰退をストップさせる別の改革案が立案・実行される可能性は残るが、可決されてしまうと協定書というアルゴリズムが発動、ただちに政令大阪市が解体され、ほぼ未来永劫、元の鞘に戻ることはない】

(4)これまでの某政党による宣伝と違いすぎるため、にわかには信じがたいと思うが、府と市の二重行政による無駄など現実にはほとんど存在しない。このことが府市協議会や市役所での専門的な検討で明らかになっていること。
【二重行政解消の効果は、昔は適当な計算で4千億円と謳われてきたが行政の専門スタッフが何度も調べ直した結果、実際には1億円程度の効果にしかならず、都構想移行のコストを考えると逆に年間13億円の赤字になる⇒都構想のメリットなど何もない】

(5)維新の党が盛んに宣伝する都構想のビジョンが、実際は都構想と無関係のものであること。
タウンミーティングなどでたとえば湾岸区にリゾートやカジノ施設を誘致するとし、これこそが都構想だと宣伝しているが、事実は政令大阪市を解体しなくても普通に進めることができる開発案件の一つにすぎない⇒無関係のものを見せて射幸心を煽る非常に質の悪い行為(ちなみに詐欺犯罪でも同様の手口を使う場合がある)

 

 それにしても、維新の党が専門的見地からは「論外」ともいえる大阪都構想を強力に進めているのは一体なぜなのでしょうか。想像も含め、荒唐無稽にならない範囲でつらつらと考えてみました――。

 

・二重行政解消による財政効果と都構想移行コストは、行政スタッフによる詳細レベルで既に結論が出ており(=差引で年間13億円の赤字)本来は構想としてすら生き残れないレベル。
・協定書が発効されたとすると、旧政令大阪市の財源だった分のうち年間2200億円大阪府に吸い上げられることになるが、このこと自体、旧大阪市の住民にとっては自由裁量のお金が減るためデメリットにしかならない。
・ところが大阪府としては自由に裁量できるお金が増える。特に大阪府は現在「起債許可団体」に指定されているほど財政状態が悪いため、2200億円の一部を赤字補填に活用できることは非常に魅力的。この額は都構想移行による年間13億円の赤字を補って余りある収入となる。
・したがって大阪都構想とは、大阪市の住民から吸い上げた莫大な税金を大阪府の赤字補填に用い、大阪府の財政健全化を進める抜本的方策といえる。問題は旧大阪市民のサービスが確実に低下し住民の不満は増大するが、これは地域が特別区に分割され「住民代表(=区長)の力」が大幅に削がれているため、府知事によるコントロールが容易である。
・さらに都構想の一環として(無理筋な)民営化や(不自然な)企業誘致を進める。これはいわゆる広義のレントシーキング(公共的業務を民間に開放すること)であり、政治家や推進者たちに有形無形の便宜供与の機会を与える。[典型例は、太陽光発電の固定価格買取制度、電力の発送電分離]

 

 まぁ大阪府や潜在的な利害関係者にとってはすこぶる美味しい話です。ですが仮にも大阪市民の税金でゴハン食べてる人がこれをやっちゃいけません。市民に対する重大な裏切り行為にもなりかねない話で、もし協定書が可決され、将来、大阪市域に住む住民がソンをする事態になったら「自分たちが決めたことだから仕方がない」と素直に納得してくれるでしょうか。人間ですからそんなことはあり得ないでしょう。おそらく法律で定められた事実の説明を故意に行わなかったとして当時の推進者に対して憎悪の目を向けるかもしれません。どんな形になるかはわかりませんが想定外の議論につながる可能性があることは容易に想像がつきます。都構想というのは地方自治史上最悪といっていいほど筋の悪い政策なので、大阪市有権者はくれぐれも軽い気持ちでスルーしてはいけません。5月17日の投票――大阪市にお住まいの方々におきましては、ぜひ正しい決断をされ、投票所に足を運んで頂けたらと思います(黒猫翁)