黒猫翁の言いたい砲弾

新聞やテレビを賑わしていることについて思ったことを書いていくページです。公開の備忘録?ですかねw

ダブル選挙の結果を受けて、近畿メガリージョン構想の修正が必要だと思いました

 大阪ダブル選挙で「おおさか維新の会」が圧勝となりました。この政党は的外れな政治的主張もさることながら、限りなく詐欺的手法に近い政治活動にも眉をひそめるところがあって、内心、維新以外の候補を応援していました。特に自民党が掲げた「近畿メガリージョン構想」は、大阪、というより関西全体の経済を新幹線を中心とした交通インフラ整備によって勃興させようというもので、世界各地の成功例や東京の事例を垣間見るだけでも非常に合理的な発想であることが分かります。しかもこれを与党が一丸となって(すなわち予算も政治力も総動員して)プロジェクトを進めるとなると、いよいよこれからは関西復興の幕開けになるに違いないと大いに期待しておりました。
 ところが、こともあろうか、知事選も市長選も維新側の勝利となり、一気に暗雲が立ち込めてしまいました。新聞によると、維新は民主的な手続きで何度も廃案にされた都構想をまたまた進めたいと思っているようで、今後の府議会、市議会での議論は、おそらく「大阪市解体構想」復活で一色に塗りつぶされることになるでしょう。今回のダブル選挙で自民党候補が全滅したのは何が悪かったかというと、それはやはり自民党の底力が出せなかった、あるいは出さなかったせいではないかと思います。憲法改正の多数派工作とのからみもあり、議員の一人一人に本当の意味で危機意識が欠けていたのかもしれません。自民党は大いに反省すべきでしょう。


 ですが、私はそれだけではないと思います。これが大阪でなく他の都市であれば、(韓国でよくある)嘘とデマに満ち満ちた「過激な圧力団体のような政党」が、冷静で中道的な日本の選挙民の支持を得られるとはとても信じられないからです。いかにテレビやマスコミの偏向報道の後押しがあったとしても、です。ところが大阪という土地では、そのような団体が一部ではなぜか熱狂的に支持され、おまけに府民・市民の多くが、戦前への先祖返りのような非合理的な政策にも寛容な態度で平然としていられるわけで、本当に不思議な現象です。残念ながら大阪ならではの選挙結果・・・といっても過言ではないかもしれません。しかし、いずれにしても大阪の選挙民は、結果として、メガリージョンという近畿圏全体のプロジェクトに背を向け、大阪市解体構想を再度進める方向性を選んでしまいました。大阪府大阪市は今後、元来た道を引き返すように、またもや不毛な都構想の泥沼に引きずりこまれていくでしょう。大阪の行き着く先がどうなるのか――個人的に大阪という町にシンパシーを覚える私としては気になるところではありますが、一方で、首都直下地震南海トラフ地震による被害に備え、東京一極集中の解消や地方再生策の実行は待ったなしの状況であり、大阪のゴタゴタが済むまで手をこまねいて立ち止まっていることはできません。たとえ大阪を抜きにしてでも、近畿圏の経済復興プロジェクトは加速して進めていかなければならないと思います。


1 近畿圏は大阪府だけではない


 現在の近畿メガリーション(新幹線ネットワーク)構想では、敦賀まで延伸した北陸新幹線を大阪まで繋げるのがメインとして考えられています。そのルートは色々候補がありますが、最近では与党の新幹線プロジェクトチームで、敦賀と舞鶴を結び、そこから京都を経て、大阪府の天王寺まで延伸し、将来的には関西空港大阪府泉佐野市)、和歌山を結んで、さらに次の段階で淡路島、四国まで結ぶという案(下図)が検討されています。

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 この案は北陸地方近畿地方の移動時間を飛躍的に短縮するだけでなく、国際的な観光都市でもある京都を経由することで、ここのところ円安を背景に激増しているインバウンド(訪日客)の需要をさらに呼び込む起爆剤になり得る優れた案だと思います。

 しかし、図でもわかるように、この案では途中からほとんど大阪府の中を通過することになるため、維新が牛耳る大阪においてプロジェクト進展の可能性は相当低いといわざるを得ません。そもそも政令都市である大阪市から吸い上げた財源で負債を返済しようとさえしている大阪府が、大型でしかも自民党発の投資プロジェクトを認めることは考えにくいですし、仮に進めることになったとしても都構想の議論でかき回されて混乱している担当役人たちが、大阪の中心地域の複雑な権利関係(土地など)を調整できるとはまず考えられません。大阪を通すルートはそもそも、与党一丸となった強力な推進力がなければ実現できないものだったということです。つまり、ダブル選挙で自民党が負けた時点で、この案の実現性はガクンと下がってしまったということです。

 それ以外にも、私自身としては、上のルートにはやや疑問があります。それは「なぜ近畿圏で最大の経済規模を持つ大阪府にあえて追加の新幹線を通す必要があるのか?」ということです。
 複数の新幹線の終着駅となっている東京と比較すればもちろん大阪は相当劣っていることは事実です。今現在の経済規模が一番大きい大阪を今後も近畿圏の中心として位置付け、東京に比することのできる都市に育て上げる目的があるとすれば、本案は合理的ではありますが、果たしてそれによって何が残るでしょうか。想像できる将来の姿は、関東における東京の一極化と同じように、近畿における大阪の一極化の進展ではないかと思います。「地域内における地域格差」の拡大です。地方再生・一極集中の解消が最終目的であるなら、大阪に新幹線を通すのは後回しにして、むしろ積極的に他の近畿圏に新幹線を通すべきではないでしょうか。それがそもそもの発想となり、頭の体操で思いついたのが下図の新ルートです(しばらく笑わずにお読みくださいw)

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 舞鶴から京都まで、そして、四国新幹線への延伸を見据えて和歌山を暫定的な終着駅とする点は前記ルートと同じです。ですが、途中ルートがまったく違います。この新ルートでは、大阪を取り巻く県(京都府奈良県和歌山県)を新幹線が走ることによって、それらの地域の活性化を図り、むしろ大阪との経済格差を縮小させることが主眼となっています。また、本案には次のような利点が挙げられます。


ア) 北陸、さらには甲信越地方の潜在的な観光客をも呼び込むことができる点は前の案と同じだが、本案の場合、海外からの観光客が訪れる場所として毎年高ランキングに挙げられている、「京都」、「奈良」、「高野山がすべて途中駅にあり、それ以外にも山あり川ありの豊富な観光資源があるため、大きなインバウンド収入の増加が期待できる。


イ) 東京の高速道路における外環道と同じような役割となっており、(遠い?)将来、大阪府がインフラ投資に前向きになった時点で、関空・和歌山間などの新幹線の増設によって、大阪府もネットワークに組み込むことができる。特に、大阪府の第二の政令指定都市である堺市がその気になれば、たとえば堺・奈良間の新幹線増設は、大阪市内を通す原案よりもハードルは低いと考えられる。


ウ) 大阪府内に線路を敷設するのと異なり、奈良県和歌山県は土地の権利者も限られており、土地代も安いため、線路延伸に係る費用と工程を最小化することができる。また、既に小規模な従来路線(JR西日本)がルートに沿って敷設されているため、調整は進めやすい。


エ) 大阪府の政治的状況に左右されることなく、新幹線ネットワーク、すなわち近畿メガリージョンのプロジェクトを進めることができる。(この際、和歌山を地盤とする二階氏の存在は大きな推進力となるはず。)


 以上がメリットですが、もちろん課題もあります。一つは、関空の訪日客の新幹線ネットワークへのアクセス性です。大阪府が新幹線増設(関空・和歌山間、堺・奈良間など)を完成させるまでは、従来の移動手段(バス、電車)がメインとなりますが、工夫によってはある程度利便性を改善させることも可能です。
 まず、関空・和歌山間のリムジンバス(約40分)はこれ以上時間短縮できませんが、鉄道であれば直行の定期便を増発することで移動時間の大幅短縮を図ることができるでしょう。また、現在、関空・神戸間を高速フェリーの定期便が走っていますが、関空・和歌山間にはなく、和歌山港からのフェリーは行き先が徳島に限定されています。今後新たに関空和歌山港間を高速フェリーで結べば、利便性はもとより、また違った意味で日本観光の売りになるのではないでしょうか。

 

2 残念ながら大阪のさらなる地位低下は避けられない


 上で述べた案は、近畿全体の経済圏を考えたもので、大阪自体は「後回し」にするという、これまでにない考え方に基づいています。本来は、京都、奈良、和歌山のみならず大阪も一緒に成長していくという青写真のもとでルートを考えるのが理想的なのでしょうが、地域再生が待ったなしの状況で、大阪の府民・市民が今回のような選択をしてしまったからにはどうしようもありません。近畿メガリージョンプロジェクトは「与党の力で」かつ「大阪の外側で」淡々と進められ、気が付くと大阪以外の周りは全部新幹線でつながっていた、という事態も想定しておかなければならないでしょう。また、同じ意味で、自民党が強く主張していたリニア新幹線の大阪同時開通も、今回の選挙によって相当説得力を失ってしまったのではないでしょうか。
 「知らない間に大阪が陸の孤島になる」――もちろん与党自民党維新率いる大阪府大阪市に対して、大阪を含めたメガリージョン構想を粘り強く説得していくでしょうし、また、そうすべきですが、どうも最後にはこんな姿を想像してしまいます。国民の一人としてはまことにもって残念な話です。(黒猫翁)