黒猫翁の言いたい砲弾

新聞やテレビを賑わしていることについて思ったことを書いていくページです。公開の備忘録?ですかねw

最近さらに知名度が上がった藤井聡さんについて調べてみました。

藤井聡内閣官房参与――ネット上で突然勃発した橋下大阪市長との舌戦ですっかり有名になりました。
 私自身はネットの動画や静画を通してお顔を存じておりますし,内閣参与としてのこれまでの活動や成果もおおよそ把握しておりますが,普段から政治・経済に特に関心の深い方でなければ一般にはほとんど知られていないのではないでしょうか。
私の周りの人間5,6人に聞いてみても「知っている」という人は皆無でした。大阪市長からは「バカ学者の典型」とか「小チンピラ」とか「顔だけヒトラー(?違いましたっけ・・・)」とか呼ばれているので,それだけを耳にした方は藤井氏についてとんでもない人物像を想像しておられるかもしれません。
 また,私自身も京都大学の教授というだけでどんなバックグラウンドを持った人なのか詳しく知らなかったこともあり,今回は藤井聡さんがどんな学者さんなのか,ネットで分かる範囲で調べてみました。
 

 まず年齢ですが1968年生まれの46歳で,橋本市長(45歳)と大体同じくらいです。お若いですね。ざらっと見た限り安部内閣の参与のなかではダントツで若いです。同じ内閣参与で経済を専ら担当している浜田宏一氏が79歳,同じく本多悦郎氏が60歳ですので,日本の年功序列的感覚で言えば経済に関する限り発言力はあまり大きくなさそうです。ですが,逆にいうとこの若さで参与に抜擢されるというのはその実力や業績が並み外れていることを物語っています。若干40歳代で一国の総理大臣のブレーンなのですから推して知るべしでしょう。
 

 次にバックグラウンドですが,実はこの記事を書くまで藤井氏のことをガチガチの土木一本槍の学者さんだと思っていました。なんといっても公共政策をメインにした国土強靭化構想の提唱者ですから。ところがあに図らんや,専門分野が多岐にわたった人であることが分かりました。いわゆるダ・ヴィンチみたいな万能タイプの専門家ですかね。具体的には土木工学,都市社会工学,経済学,社会心理学といった分野ですが,社会心理学では一時期スウェーデンの大学の客員研究員をされておられます。

 このように幅広い専門分野をお持ちの藤井参与ですが,いずれの分野の研究においても,そのアプローチの手法は行動計量学にあるようです。行動計量学というのは,人間あるいはその集団の行動を計量的な手法で分析・予測する非常に実践的な学問であり,「統計学」がその根幹にあります。一例を挙げますと,藤井参与は経済学の分野においてマクロ計量経済モデルを駆使したデフレ対策の論文をお書きになっています。計量経済学というと皆さんご存知ない方が多いでしょうが,統計学的手法を用いて経済モデルの分析などを行う学問であって普通の経済学と異なりとにかく恐ろしく難解な学問です。甥が大学の経済学部でしたので昔の教科書を見せてもらったことがありますが,あれはもはや「数学」ですね。軽い気持ちで秋の夜長に読破しようなんて思ってはいけません(笑)。

 「統計は最強の学問である」という本もありますが,一言でいうと藤井参与は,難解な現代統計学を駆使して都市計画や国民経済を含む広範囲な社会問題全般について最適のソリューションを提供しようとしている研究者といえます。数多くの業績を眺めた印象でいうと、藤井氏の社会問題の多岐にわたる提案は、ロジカルな理論構成に裏付けられているのみならず常に統計学的根拠が与えられていて具体的かつ実践的です。いわゆる「頭の固い、象牙の塔に棲息する学者」という――橋下市長がよく使う侮辱的表現からはもっとも遠い位置に居る学者さんだと感じました。

 ついでに紹介しておくと、行動計量学会には「林知己夫(ちきお)賞」という統計学者たちの業績を讃えるための賞が創設されていて,もちろん1年で1~2名しか選出されない名誉ある褒賞ですが,藤井参与は2005年に見事その優秀賞を獲得されています。いわゆる統計学のマイスターですね。その他,様々な賞を受賞されていますが,最近では日本学術振興会賞(理工系部門を受賞されており,これもまたレベルの高い賞として知られています。賞をもらったから偉いというのではありませんが,そこら辺の学者では一生かかってももらえないものですので只者ではないといわざるを得ないでしょう。少なくとも軽い気持ちで「バカ学者」とレッテルを貼れる相手ではなさそうです(貼ったほうが逆に世間から笑われてしまう可能性が高いかもしれません)(黒猫翁)

7つの事実論争――双方の主張サイトを探してみました。

前の記事を書き終わって色々ネットサーフィンしておりますと、藤井内閣参与が最近作ったページを発見しました。これです。

http://satoshi-fujii.com/

うん、分かりやすい。論争の経緯もわかるし今回の藤井氏の主張が「7つの事実」に集約されていることも分かる。

あと橋下市長のカウンターオピニオンが記されたものがあれば一般の市民でも中立的に判断できます。
市長はブログというよりツイッターがメインのようですが、私ツイッターやったことがないので、藤井氏が指摘している点に対して橋下氏の主張が詳細に書かれたウェブページがないかどうか調べました。

ですが、うーん・・・ありません。木で鼻をくくったような広報ページならありましたが、藤井氏の主張に対する橋下氏の反論を論理的に説明したものがないんです。ある程度橋下市長(あるいはその賛同者の方)の主張が分かるページを2つ↓発見しましたが。。。

http://hashimotostation.blog.fc2.com/blog-entry-1857.html

http://blog.kurata.tv/article/113351831.html

ちょっと分かりません。

 藤井氏が提示しているところの大所高所からの大きな構造問題?に対して、市民の疑念を真向から解凍する努力が払われていないんです。また、デタラメ、嘘八百、バカ学者、ツッコミどころ満載、アホらしいなどというプロパガンダ的な常套句が目立ちすぎて、読む者に妙な違和感を作り出してしまっています。ここでいう違和感というのは、相手の主張を真正面からキャッチした上で論理的に反論することができないので、仕方なしに扇情的な言葉で飾って説得力のない文章を「誤魔化している」のではないか?という疑念です。もちろん当然ですが品格的な嫌悪感を感じる方もおられると思われますので、こんな反論文でもって5月の住民投票の賛成票が増えるとはちょっと信じられません。

 公開討論を執拗に要求する姿勢についてもやはり同じことがいえます。「7つの事実」が事実でないのであれば「『7つの事実』が事実でない証明」を示せばそれで話は済みます。私が市長であればたとえば「藤井氏のご懸念は御尤もですが、大阪市が使える財源は今後もほとんど変わりません。それはこれこれこういう恒久的なシステムを採用していているからです。」と公開文書ではっきりとかつ詳しく回答するでしょう。ある事柄の正否をはっきりさせることがメインテーマであるときは文書による論争が最も有効だと思います。

 そもそもテレビの討論番組を見てもわかるように、公開ディスカッションというのは議論が不利になると色んなテクニックを使って簡単に誤魔化し劣勢を挽回することができます。私自身、一時期口八丁手八丁で何度も窮地を脱してきたミニ体験がありますが帰り間際相手から「さっきの説明を文書にしてくれ」といわれたた途端げんなりしたのを良く覚えています。聴衆に囲まれた対面議論には真実を追及するというよりも「雰囲気の勝敗」を決めるという側面が強いことの一例かと思います。ネットで起こった論争を公開討論につなげたいという橋下市長の姿勢には悲しいかなどうしても「誤魔化したい感」をぬぐうことができません。

 なお、討論から逃げるなというようなナイーブな反応は大人なら避けるのが普通です。同級生に喧嘩を売るヤンキー学生と同じ構図で、社会人としてあまりにもみっともないからですね。どうしてもしつこいときは「そちらこそ正否が明らかになる書面論争から逃げるな!」とでも叫び返すのでしょうか。まあこれも若干大人げないことです(笑)。

 橋下市長は少し頭を切り替え、まずお怒りの気持ちを鎮めることをお勧めしたいです。そして、じっくりと書面論争に取り組み真摯な回答を提示していくことこそが、藤井氏の言説を覆し、さらには大阪市民の疑念を払拭する一番の近道ではないかと思います。(黒猫翁)

ヘドロチック動画を見てみました。

橋下大阪市長と藤井内閣官房参与のやり取りが最近よく取り上げられています。

橋下市長の記者会見で言われていた「ヘドロチック」なる動画がどういうものか確認してみました。

http://www.shukannishida.jp/nishidavision-fujii.html

そしたら動画自体はなんと2年以上前の年代もの・・・(笑) 橋下氏も非難ネタとして使うのであればもっと新しいのを見つけてくれば良かったのでは?と老婆心ながら思いましたが、気を取り直して視聴してみた結果。。。

 

例のヘドロ発言の部分ですが、これは地域文化論ですよ。大阪全体が歴史のあるマチュアな(成熟した)地域であったところに、大阪市という小さな区域にたくさんの人間が密集してきて様々な思惑がひしめき合うようになった。その結果、藤井氏の比喩でいうところの「程よく腐った鯛のように」美味い文化を持っていた大阪市が一線を越えて腐りすぎた状態になっているのではないか――という主張であり、都市計画に造形の深い藤井氏の立派なひとつの学問的視点だと思いました。また、藤井氏は、大阪市以外の地域、つまり泉佐野、貝塚、岸和田などには美味いマチュアな文化が残っているとし、さらにいうと腐りすぎているのは大阪市の中の一部の人間であると付け加えています。
 実をいうと私自身も過去に大阪市近辺に長年住んでいたことがありますが、藤井氏の視点はなるほどと共感するところがあります。のちに九州、東北、関東へ引っ越しまして色んな地域の文化と接触してきました。なかにはお互いとてもよく似た町もあってその時々で懐かしい記憶が呼び覚まされましたが、大阪市という町についてはこうしたデジャブ感をついぞ感じることがありませんでした。良くも悪くも一種の特異点みたいな存在といいましょうか。

 一部だけを切り取った動画を見た方は、藤井氏が単に悪口を言っているように見えるかもしれませんが、全編を素の頭で見れば、橋下市長という政治家に対する健全な言論批判にはなっていても、どう斜めに見ても大阪批判ではありません。むしろ関西人独特の自虐ユーモアでくるまれた藤井氏の大阪への愛情のカケラすら感じられます。最近、「大阪の人間は藤井氏を許すな」といった妙な書き込みがネット上で散見されますが、ちょっと的外れな発言かと思います。

次回は本件についてもう少し踏み込んで考えてみます。(黒猫翁)