黒猫翁の言いたい砲弾

新聞やテレビを賑わしていることについて思ったことを書いていくページです。公開の備忘録?ですかねw

藤井聡氏に対する維新の党の対応ぶりを分析しました(3)

 ついこの前、橋下市長から、大阪市職員の一部に対して大阪都構想住民投票関連のマスコミの取材を受けないよう要請がありました。市職員すなわち公務員の政治活動については法律上非常に抑制的ということもあり、あまり不思議に思わずスルーしてしまった方がほとんどだと思いますが、あの要請自体は非常に独善的な考えから出てきたものであって、おそらく法的根拠はほとんどないと思います。さて本題、橋下市長の(すり替え後の)新論点ですが――。

◆「中立といいながら藤井氏は反都構想の政治活動をやっており、まさに中立偽装だ」
 ここでは政治活動をやってはいけないとまでは言っていませんが、なんとなく言外に「教職員が政治活動をやっていいのか?」というニュアンスを醸し出した発言です。いわゆる教育公務員(大学等を除く公立学校の教員)の違法な政治活動が問題となっている昨今、市長発言を聞いた聴衆のなかで藤井氏のことを同列視して捉える人がいてもおかしくありません。印象操作ですね。藤井氏は大学の教職員ですが、2004年の国立大学法人の設置に伴い公務員の身分から離れています。したがって教育公務員が現在も受けているような政治活動の一部禁止の規則に縛られることなく、普通の会社員とほぼ同様、自由な政治・言論活動を行うことができます。数百億円の税金をもらっているくせに、という批判は単なる感情論であって悪質な印象操作ともいえます。
 さて、藤井氏は今は法人職員だから職務外の政治活動云々の議論は意味がないといえばその通りなのですが、あえて国家公務員法に照らした場合、今の藤井氏の活動は問題なのかどうか?を検証してみたいと思います。「今はセーフだが昔はNGだった」のか「今も昔も問題なかった」のかを確認しておくことは藤井氏の活動の本質を理解する上で必要だと思うからです。

 藤井氏が行った活動はごく簡単にいうと、
大学内における職務とは関係なく(もちろん勤務時間外に)大阪市住民投票にかけようとしている公共政策(案)に対し、各種メディアや政治団体の集会等を利用して批判活動を継続して行っている
というものです。このとき藤井氏が国家公務員であったとすると、同氏には国家公務員法及び人事院規則が適用されます。「公務員はたとえ勤務時間外であっても、政治的な目的で政治的行為を行ってはならない」というのが鉄則ですので、勤務時間外だからといって残念ながら門前払いはできず、一応の適用性検討は必要になってきます。

 さて人事院規則において藤井氏の活動が政治的行為として引っかかりそうな条文は、
集会などの場所で公に政治的目的を有する意見を述べたり――政治的目的を有する文書などを著作したりすること
ですが、注意すべきことは「政治的目的」を伴わない行為は対象とはならないことです。政治的目的も規則において具体的に規定されており、藤井氏の場合、
(1) 「『公選職』をえらぶ選挙で特定の人を支持または反対する目的」があるかどうか――
あるいは
(2)「特定の政党(OR政治団体)を支持または反対する」目的があるかどうか――
が焦点になります。
 (1)については現在及び近い将来まで公選職の選挙は催されていませんから論外です。
 (2)については若干検討の余地はあります。藤井氏は現在のところ言論活動のなかで「政党」に対する支持・不支持に関するいかなる意思表明もしていませんが、ある政治団体すなわち自民党の集会で複数回講演を行ったのは事実です。この行為を含めた一連の言論活動の目的が、「維新の党に反対し自民党を支持すること」であれば、それは立派な政治的目的と見なされ国家公務員法違反となるでしょう。懲戒処分や罰則(3年以下の懲役または100万円以下の罰金)を受けることになります。
 しかし藤井氏の言論内容を見れば一目瞭然ですが、政党や特定団体に対する礼賛や否定といった政治的な評価は何ひとつ見当たりません。これは実際に読んだり聞いたりした人なら疑いようのない事実です。同氏の視線は常に大阪都構想という具体的な「政策案」に注がれており、その意味において、彼の言論活動の唯一の目的は
大阪都構想という政策案が公共の利益に資するかどうか――について公共政策の専門家としての見解を広く一般に流布すること
であると判断せざるを得ません。結果的にそれが自民党を利し維新の党に政治的不利益を与えることになったとしても藤井氏の活動目的からすればどうでもいいことでしょう。やはり(2)についても成立性は低いといわざるを得ません。

 もうひとつ注意しなければならない法律があります。5月17日の住民投票は「大都市地域における特別区の設置に関する法律(平成25年制定)」に準拠して行われることになっていますが、そのなかで投票の実施にあたっては「公職選挙法」の一部を準用することが謳われています。そこに次の条文があります。
国家及び地方公務員はその地位を利用して投票活動をすることができない
 地位を利用して――という部分が味噌です。この条文違反で摘発された公務員は過去にたくさんいて、『国家公務員と仮定された藤井氏』としてはもっとも気をつけなければいけないところです。具体例をいいますと、たとえば藤井氏が大阪市在住の教え子に対し「反対票を入れてくれたら私の講義は合格にしてあげる」などの行為です。これについては他人様の内心や背後の行動まで推し量ることはできませんので何ともいえませんが、動画やテレビで藤井氏のお人柄をお見受けする限り無縁の条文という気がします。
 ただしこの条文に関連して時々おかしなことを言う人がいます。「肩書」付きで講演やメディア出演をすることは「地位を利用した行為」に当たるという指摘です。よくある外形標準説(意味は民法の入門書などをご覧ください。)に基づく主張ですね。ごく最近では橋下市長が藤井氏の活動について類似のことを講演で発言していますが、さすがにこれは拡大解釈であることはご自分でもわかっておられると思います。この主張が正しいとすると巷に数多ある講演会のレジュメから演者の肩書きがすべて消え去り、開催された会合は正体不明の謎の人物たちが語り合う秘密集会のようになってしまいます。肩書きのついた演者による講演については、
単に慣例によって肩書きを使用することや純粋に個人的なものは地位利用による選挙運動には該当しない
というのが国などの一致した考え方となっています(その旨はっきりと書かれたwebページはいくつか発見できましたが、愛知県のHPが一番分かり易いと思います)。

 頭の体操は以上です。つまり藤井氏が国家公務員であると仮定しても、その言論活動は国家公務員法・人事規則及び公職選挙法に抵触するものではない、というのが結論で、「今も昔も問題のない」健全な言論活動であるといえます。なお藤井氏は現内閣における内閣官房参与としての顔も持っていますが、参与は国家公務員の政治的行為に関する条文の適用除外とされていますので何の問題もありません。
 
 さて橋下市長は「中立偽装」していると批判していますが、この点はとても誤解を生みやすい表現ではないかと懸念しています。なぜなら「政党に対して中立」と「政策に対して中立」というのはかなり違った話になるからですが、テレビなどを聞き流している人はそれほど深くは考えないからです。「政党中立」ならば、どこの政党も特段支持していないという意味になって分かり易いのですが、「政策中立」というのは意味不明であまり聞いたことがありません。おそらく、条件付きで賛成あるいは反対という人か、政策自体がよく理解できない人か、そもそも関心のない人か――そんな多様な人をひっくるめて「政策中立」と定義するしかないでしょう。藤井氏がサイトにおいて「中立を公言した」とする市長の言葉は事実でないとしていますが、それはそうでしょう。なぜなら藤井氏は明確に「政策反対」だからです。同氏は、「7つの事実」は単なる事実の紹介であり、都構想という政策に対する賛成か反対かを示した記事ではないという(当たり前の)ことを言ったにすぎないのですが、橋下市長がそれを勝手に「都構想という政策に中立」と決め付けてしまった旨主張しています。

中立といいながら藤井氏は反都構想の政治活動をやっており、まさに中立偽装だ
 この市長の言葉に対して藤井氏が返答するとすれば次のようになるでしょう。


政策中立などとどこでも言っておらず私は明確に政策反対である。市長は勝手に中立を公言したと誤解あるいは曲解したにもかかわらず私に落ち度があると決め付け、『偽装』などという言葉を用い私の名誉を著しく毀損しており甚だ遺憾である。なお私の言論活動は仮に私の身分が国家公務員のままであったとしても、政治的目的(特定の政党の支持など)で行っているのではないため政治活動という指摘すら間違っている

 市長の論点はさらに変わっていきます。(しつこいようですが「7つの事実」に対する維新の党の回答はどうなっているのでしょうか?)(黒猫翁)