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黒猫翁の言いたい砲弾

新聞やテレビを賑わしていることについて思ったことを書いていくページです。公開の備忘録?ですかねw

【経済】第一の矢「異次元の量的緩和」はホントに効いているのでしょうか?(2)

 日本の場合はどうでしょうか。
 まずはこの前の記事にアップした米・英データと同じ出典からご紹介しましょう。

 

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 前回と同様、赤い線がMBで、青がマネーストック、緑が金融機関の貸出です。
 2001年から2006年にかけて日銀(当時の総裁は速水氏~福井氏)がMBを増大させているのが分かります。これはITバブル崩壊に対処するために行った量的緩和で、5年間で44兆円のお金を日銀当座預金に積み上げました。その後は予定通り出口戦略を進め、そそくさと店じまいしています。
 マネーストックはというと・・・これがなんとアングロサクソン系の国とは異なり、わずかづつではありますが明らかに増加傾向が見られます。理由は分析しないと分かりませんが、国民性や経済構造の違いに関係しているのかもしれません。ただしやはり2001年からのミニ緩和とは何の関係性も見出せません。マネーストックは1997年の土地バブル崩壊後、マイペースで漸増を続けていくのみで、政府の金融政策にはまるでソッポを向いているかのような振る舞いです。金融機関の貸出も同様、ミニ緩和にはまるっきり反応していません。もっともこちらのほうは逆に少しずつ減少していて目も当てられませんね。
 だからこのとき行ったミニ緩和は前回ご紹介した米・英の例と同じく信用創造の活性化には効果がなかったといわざるを得ません。ただ、(本筋とは無関係ですが)出口戦略はうまくいったようです。この時に日銀が購入した国債は3か月とかの短期物が中心だったのですぐに期落ちして日銀内のバランスシートに影響を及ぼすことはありませんでした。(それがいいことなのか、どうでもいいことなのかは別ですよw)

 

2012年以降の最新状況
 ところでこのグラフは2011年までしかありません。このあと安倍政権が誕生し2013年度からは鳴り物入りで異次元緩和が始まったわけですから、この期間の動きが大切です。それで調べてみた結果がこれです。なお、マネーストックは過去との整合性を重視してM2としました。(マネーストックには計算の対象とする金融機関によってM1~3くらいまで分かれていますが、昔よく使用されていたM2+CDというのが現在のM2に一番近いです。)

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  赤のMBは2013年から爆発的に上昇しています(2014年12月までで120兆円増加)。日銀当座預金の底が抜けそうな勢いですね。問題は青のマネーストックです。
 一応増加はしていますが2011年以前の傾向とまったく変わっていません。昨年10月に黒田日銀総裁が「マネーストックの増加は極めて穏やか」と発言しましたが、それだけでは誤解を生むので、さらに一言“異次元の量的緩和の前後でマネーストックの増加割合はほとんど変わっていません”と付け加えるべきではなかったかと思います。
 では、「金融機関の貸出」はどうでしょうか。2011年までは明確に減少していましたが、2012年以降はどんな変化が見られるか――それがこれです。

 

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 なんと上がっているではありませんか。黒線が民間金融機関の貸出残高の増加率のトレンドですが、ぐんぐん伸びているのが見てとれます。いよいよ黒田バズーカの効果が出てきたのかな?と一瞬喜んでしまいました。
 ところがよく見ると前年比貸出がプラスになったのは2011年頃からで、異次元緩和の開始は2013年ですから、ほとんど関連はありません(しかも2014年には貸出は減少しています)。
 さらに詳しく見ていくと、貸出が増えているといっても必ずしも理想的な状況でないことがわかります。すなわち、民間金融機関の貸出は「民間非金融法人(いわゆる民間企業)向け」と「家計向け(住宅ローン」と合わせて7割を占めていて、これをどんどん増やしていくのが信用創造の源になるはずですが、異次元緩和が開始されたにもかからわず月に1~2%程度しか伸びていません。住宅の需要増(駆け込み需要)も一時的で限定的な効果しかありませんでした。一方で海外向けの貸出がなんと月に20~30%も増えており、貸出総残高における海外向け貸出の構成比率が爆発的に伸びている状況です。これはつまり、


 これまで日銀が積み上げてきた莫大な額の当座預金のお金が家計や国内企業にはほとんど貸し出されず、代わりに外国企業にどんどん流出している。


という構図になります。日銀はまるで外国企業を潤わせるためにせっせとお金を刷っているようなもので一体何をしているのか分かりません。

 

MBを増やすとマネーストックが増えるか?
 MB(マネタリーベース)を増やすとマネーストックが増えるかどうか――巷ではよくこの手の議論がされています。大きな傾向でいうと、これまでご紹介したように「MBとマネーストックはほとんど相関がない」という答えにならざるを得ません。しかしミクロな視点で見ると厳密には違っています。下のグラフをご覧ください。

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 これはMBとマネーストックの増加率(前年比)の推移を表したものです。これを見ると、二つの指標は意外と連関していることが分かります。MBを増やすことによってマネーストックを増やす、という量的緩和の方策は理屈の上では正しいのだと思います。ただしグラフのスケールが異なっている点に気をつけなければなりません。たとえば2014年時点でMBは前年比50%アップ(右目盛)させており、マネーストックもそれに応じる形で増加していますが前年比で高々3%程度(左目盛)に過ぎません。単純にいえばMB1割アップに対してマネーストックは0.6%アップした、という非常に感度の低い関係です。これを「厳密には連関がある」と見るのか「実質的には連関がない」と見るのか――人それぞれでしょうが、日本全体のマクロの話をしている時に数学的な厳密性を持ちだしてきても全体像は掴めないのではないかと考えます。
 「たとえ0.6%と効果が小さくてもマネーストックは確実にプラスされていくのだからもっと長い目で見ればいいではないか?」という意見もあります。ですが、日本、米国、英国の例で見てきたように、マネーストックのバルクの傾向は量的緩和とはほとんど関係がない部分に支配されているとしか考えられませんし、日本の場合、増えたマネーは海外へ流出してしまっているのが現状です。さらにMBが膨れ上がると出口戦略が急速に難しくなるのも事実ですので、このまま時が経過すればするほど経済構造に歪が出てくる可能性が高いのではないでしょうか。ちなみにインフレ期にはMB1割アップに対してマネーストックも1割近くアップしていたという過去のデータがあります。もちろん今はデフレですのでそんな贅沢な数字は適用はできません。(まあそもそもインフレ期に量的緩和なんて火に油ですから絶対にしてはいけません(笑))。

 では量的緩和にはメリットがないのか、というと、いやいやそうではありません――という話を次回の記事でお話したいと思います。(黒猫翁)