黒猫翁の言いたい砲弾

新聞やテレビを賑わしていることについて思ったことを書いていくページです。公開の備忘録?ですかねw

これまでの橋下市長の反論について

2月14日の記者会見で橋下大阪市長は、公開討論については「やっても大体結論は見えている」ので今後は討論を求めていかない旨発言したようです。

【橋下氏語録】藤井教授とのバトル混戦模様…「びびらずに仲間連れてきて」と挑発気味に公開討論要求 “参戦”平松氏「趣味に付き合わない」 (1/5ページ) - 産経WEST

ですが、そこで止めておけばいいのに、その後の記者の煽り質問に乗せられ、藤井氏が望む人数・形式で公開討論を申し込んできたら一人で相手をしてやる――「もっとびびらずに仲間を連れてこい」といった趣旨の発言を引き出され、結局何をいいたいのかわからない、単に自身の感情をぶちまけるような記者会見になってしまいました。泥沼の口撃戦という路線で話題を盛り上げたい記者たちは内心ほくそ笑んでいたでしょう。

 それにしても市長の言葉の使い方たるや相変わらず眉を潜めたくなるような喧嘩腰で、(失礼ながら)逆に市長の態度のほうに「小ちんぴら感」が増幅されてきたという印象を受けた方も多いのではないでしょうか。まだお若い方なので、内閣の菅官房長官のような海千山千の答弁ぶりをお手本にしろとは言いませんが、マスコミの煽りに簡単に誘導されないよう、ある程度答弁をコントロールするスキルを学んでほしいと思いました。

1 公開討論という形式が是か非か?

 「びびらないで討論から逃げるな!」というのを基本的な攻撃スタンスにしているようですが、過去に行ってきた市長の「討論の作法」はどんなものであったかはインターネットで確認することができます。
 この記事を書くにあたって、少し前に在特会という政治団体の人と橋下市長が公開討論をしている動画を初めて拝見しましたが

 橋下徹vs在特会・桜井誠 【全】10/20 - YouTube

額を机に打ち付けるほど後悔しました。有益な情報もなにも得られず、只々不愉快な気持ちになっただけです。あれが市長のいう討論だとすると正直いって軽蔑の感情すら湧いてきます。件の藤井氏が公開討論を受けたとしても、市長の記者会見での喧嘩腰の態度を外挿するならば結局在特会の人が藤井氏に置き換わるだけになってしまうことは容易に想像でき、市民にとってこれ以上の時間の無駄はないでしょう。


 自民党市議の柳本氏との公開テレビ討論の模様もネットで拝見しました。

橋下市長vs柳本市議*大阪都構想SP by Voice - YouTube

先の動画と比べるとホッとするような構成で、橋下市長も柳本議員も事前に分かり易いパネルを用意しておられて視聴者に訴えようという真摯な姿勢が感じられました。ですが、「1分で説明してください」という時間制約のせいか、議論はまったくといっていいほど深まらず、視聴者も何が問題なのか理解に苦しんだのではないかと思います。お互いの主張を早口で喋り合っただけの意見陳述会に近いものがあって、せっかくの貴重な討論の果実は結局「ゼロ」だったのではないでしょうか


 議論や討論というのは主張のキャッチボールができる十分な環境、そしてプレイヤーの知性と協力姿勢がなければ決して前へ進みません。お互い髪をふり乱して投げまくる雪合戦になってしまっては論点は曖昧になり真実はさらに遠くなるばかりですし、顔を背けた2体の人形が順番に意見陳述し合うだけのイベントでは議論が噛み合わず新しい情報の果実を掴むことはできません。


 今もっとも求められていることは、藤井内閣参与が提起している「7つの事実」に対して、都構想の提案者である橋下市長が、間違っている点を細部に至るまで冷静に指摘し論点をはっきりさせることです。そして論点がはっきりしたら、もっとも効果的な方法でお互いの反論・再反論を積み上げていく。そうすれば最終的には双方が満足できる結論に辿り着けるはずです。公開討論という形式には、たとえどれだけ環境を整えたとしても必ず「嘘」「ブラフ」「目くらまし」等々――数多くの誤魔化し戦術が付きまといます。今のような「一方の主張する単純な事実が正しいかそうでないか」という問題を解決するためにもっともふさわしい議論の形式は、論点を絞りやすい「書面による論争」ではないかと思います。

 

2 橋下市長のこれまでの反論

 橋下市長が同じ記者会見で、大阪市が(市外にある)関西国際空港などへの出資も行っている点を指摘し、「藤井氏や平松前市長の指摘をばっさりと切り捨てた」という報道がありましたが、思わずう~んと唸ってしまいました。感心したわけではありません。あまりにも露骨な「論点ずらし」であって市民や視聴者を煙に巻いてやろうという魂胆が見え見えだったからです。
 市長の主張は、大阪市からは市外へのお金の流出は今でも行われているのに藤井氏等はそんなことすら知らない――という趣旨の反論なのですが、誰でも知ってますよ(笑)。勝手に「知らない」と決め付けているだけです。だけどそんなことは藤井氏らの主張の論点とは何の関係もない話で、議論の遡上に乗せなければならないような価値のある事実ではありません。会見の場にいた記者が誰一人更問をせず、そのままスルーして記事を書いたことには頭をひねってしまいました。なぜなら、大阪市民も他の市と同じく恩恵を受ける広域行政施設にお金を拠出することは別に空港じゃなくても当たり前の話で、そんなことは普通の理解力があれば常識だからです。逆に大阪市がお金を出さなければ大阪市民は関西空港を利用する権利はないという声が出てしまうではありませんか(笑)。つまり、橋下市長は、市民の利益になる(市外の)施設にお金を出している(誰に言われなくても至極当然の)事実をあげたにすぎず、藤井氏らが問題としている政令市の特権として得ている財源(児童・老人福祉、道路整備等々の用途として使われる税金)の使途の話と何の関係もありません。それとも、今までも政令市の税金が空港施設などにお金が流出してるのだから同じように政令市の特権財源が市外に流出してもおかしくないと言いたいのでしょうか? もしそうだとしたら(特権財源が府に召し上げられそれが市外に流出する)という藤井氏の指摘を完全に受け入れていることになってしまいます。これは大阪市の「サービスの質を落とさない」「政令市時代に受け取っていた特権財源は減らさない」という趣旨の声明(担保付のコミットメントでないことが藤井氏の指摘する重要論点です。)と矛盾しますので、まああり得ないでしょう。
 重ねて言うと、平松氏や藤井氏は、政令市の特権財源がなくなりますよ、児童・老人福祉や道路などにかかるお金は府から予算を配分される形になるので今より減ってしまう可能性が高いですよ、他市との横並びでサービスの質が下がったり市民の税金が他市の予算に回されたり府の借金返済に使われたりすると考えるのが自然ですよ、という話をしています。それなのに突如「政令市の全歳入から特権財源を引いた残りの歳入の使途」のほうに話を逸らして「ここから大阪空港に使われているじゃないか知らなかったのか」などというトンチンカンな話を紹介して高笑いをされてもポカンとして「えっと・・・アンタ・・・話聞いてましたか?」としか言いようがありませんよね(笑)。平松元市長は説明するのも面倒だったせいか、苦笑して「筋違いだ」という紳士的な感想を述べられたようですが、もっと一般向けにはっきりと指摘してあげたほうがいいと思います。少なくとも橋下市長レベルの辛辣さがないと市民にはどっちが正しいことを言っているのか分からないのではないでしょうか。


 ここまで書いてきて、橋下市長はひょっとして藤井氏の「7つの事実」を否定できないことを誰よりもご存じなのではないかという気がしてきました。「7つの事実」が公表されて日も経つのに、上で述べたような頓珍漢な反論しかできず、「相手が公開討論から逃げている」というイメージ戦略だけで戦おうとしているからです。こうした場合に公開討論を開くと、先の在特会の例にような代物になることはまず間違いありません。理屈で絶対勝てない相手には、感情を刺激して場外乱闘、両者引き分けのイメージを市民に植えつけるしか勝ち目がないからです。橋下市長の「7つの事実」に対する論理的な説明・反論が欲しいところです。

 

3 その他の方の反論

 あとは嘉悦大学高橋洋一氏が藤井氏の「7つの事実」に対する反論を書いておられます。

橋下徹・大阪市長vs.内閣官房参与の 大阪都構想めぐるバトルが、案外面白い | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社]

これは少し前のもので、大阪市などから「サービスの質は落とさない」との説明がされているので市民の生活は変わらないという指摘でしたが、すでに藤井氏から反論が出されています。

高橋洋一さんとの政策議論 サトシフジイドットコム satoshi-fujii.com

郵政民営化のときの政府説明(国民からすれば約束)がほとんど無視されている現状から考えると、十分な根拠と担保が示されない公的主体の約束は「無きに等しい」ものだという趣旨だったかと記憶していますが、高橋氏の再反論は現在のところありません。高橋氏は大阪都構想の擁護者ですが、今回に限っていうと反論は成功しなかったと考えます。ただし、このような書面(記事)による論理的な論争は非常に有益で、橋下市長のこれまでの反応と比べると雲泥の差が感じられます。さすがは小泉政権でとにもかくにも経済を支えてきた実績のある方だと思いました。

 

 2月16日の国会で、安倍首相の答弁のなかで二重行政を解消するための大阪都構想は意義あることという趣旨の発言がありました。都構想自体は国の行政にあまり関係ありませんので、憲法改正などに関する維新の党の票が目当てのリップサービスかもしれませんが、橋下市長にとっては勇気百倍の援護射撃だったでしょう。これがもし地方の自民党の組織票に結び付けば5月の投票は橋下市長側に大きく傾くでしょう。こういう状況であるからこそ、藤井氏の「7つの事実」に対する大阪府大阪市の見解が明確に打ち出され、投票の当事者になる大阪市民に十分で正しい情報が与えられた上で5月の投票日を迎えられるよう心から祈念しております。(黒猫翁)