黒猫翁の言いたい砲弾

新聞やテレビを賑わしていることについて思ったことを書いていくページです。公開の備忘録?ですかねw

政令指定都市をやめるべきかどうか

政令指定都市から外れて普通の市に戻るというのはどういうことでしょうか。
これは逆から考えると理解しやすいと思います。つまり

政令指定都市になることで市はどう変わるのか?」

を把握することです。普通の市に戻るということはこれの逆の影響があると思っておけばいいわけです。政令指定都市(=政令市)になると一般的には次のような変化が起こります。

1 今まで県がやってきた業務のうちかなり多くの業務を市で行うことになります。具体的には児童福祉生活保護、老人福祉等々ですが、国道や県道の管理なども入ってきます。市役所は仕事が増えて大所帯になってしまいますが、今まで県全体のなかで平均的かつ横一列の感覚で行われてきた業務を市自身がやれますので市民目線に立った細やかなサービスができるようになります。

2 当然のことですが、増えた業務を遂行するという名目で財源がドカンと増えます。事業者税道路特定財源ガソリン税とか自動車重量税)、宝くじ収益金などは直接市に入ってくるようになりますし、これまでの実績からすれば国からの地方交付税も増額される傾向があります。県のお代官様からおこずかいをもらって家計簿でやり繰りしていた時代と比べると雲泥の差ですね。

 つまり、今までより仕事は忙しくなるがその分羽振りが良くなって、ちょっとしたミニ県みたいになるわけです。もちろん「県のなかに県を作る」ようなものですから、同じ地域に県と政令市がほとんど同じ機能を持つ建物を建ててしまうこともよくあります。いわゆる二重行政というやつですね。逆にいうと政令市がそれだけ金回りがいいことの証明であり、市民にとっては選択肢が増えてプラスではないでしょうか。

 このように政令指定都市になるということは市に大きな利益をもたらすため、日本全国ではこれを目指している市は実にたくさんあります。熊本市がこの間ついに念願の政令市になりましたね。もちろん政令市指定までの手続きや役所の再整備などハードルは高いですが、これだけ人気があるということは政令市にそれだけ大きなメリットがあるということです。

 では逆に政令指定都市から普通の市に戻した場合はどうでしょうか。(なお、大阪都構想の場合、その「市」をさらにいくつかの「特別区」に分け、「市」を消滅させるわけですが、ここでは「政令市」→「普通の市」にしたときの影響を考えました。さらに区分けして自治体規模が小さくしてしまうと普通に考えてその影響はさらに悪化すると考えられます。)

 

1 数多くの業務がなくなり、代わりに県が行うようになります。県はその市だけではなくて全体に目を行き届かせなければなりませんので、その市だけを特別扱いはしてくれません。普通に考えればサービスのレベルは年々県全体の平均値に近づいていくでしょう

2 これまで直接受け取っていた財源分がすっかりなくなります。市で発生した税金はひとまず県に召し上げられ、県は他の市と不平等にならないようにお金を再配分します。たとえば政令市であったときは市民が支払ったガソリン税などは直接市が運用して市の道路整備などに使われていましたが、普通の市になると彼らのガソリン税は「県全体」の道路整備のために使われるようになります。もちろん市の道路にも恩恵が来ることことは否定しません。しかし、市民が支払ったガソリン税がすべて市のために使われ続けることはまずあり得ません。県は県全体の利便を考えるのが仕事だからです。

 一言でいうと政令市が普通の市に戻ると市民は損をするといわざるを得ないでしょう。そもそも得をするのであれば全国の多数の自治体が我も我もと政令市を目指す理由がありません。逆に県や他の市の人々は得をするでしょう。今まで政令市の市民が稼ぎ政令市内でのみ消費されてきた税金が自分たちの市にも回ってくるようになるからです。県に至っては新しく獲得した元政令市からの収入を一部、地方債などの借金返済に回すことすら可能ですね。

 政令市であることの恩恵を維持したまま政令指定を外せないかという命題を考えた場合、まず市からあがった財源を当該市にのみ振り向けるための強力な財務システムが必要になります。当該市用の特別会計を作るのは当然のことながら、さらに厳重な監査機関を設立し多くの監査員を新たに貼り付けるといったイメージですかね。ただしこれは本来県が県民のために自由に使ってよいお金を特定の市に貼り付けるという――超が付くほどの異例の措置になりますから、少なくとも県による条例化が必要でしょう。それくらい恒久化を図っておかないと、気が付いたら「政令市のときより悪くなっているじゃないか」ということになりかねません。というよりそれが自然な流れです。また条例ということになると今度は他の市が黙っていないでしょう。当該市だけを何故そんなに特別扱いするのか?という話に当然なるからです。事はそれほど単純ではありません。そもそもこのような「特別に優遇された普通の市」を新たに作るくらいなら政令市のままでいいのではないでしょうか(笑)。

 一般的な考え方からすると、県が政令市を廃止したいと考えるのは至極当然ですが、市の側からわざわざ魅力的な行政形態を捨てようという動きには理解しがたいものがあります。二重行政をどうしても撤廃したいのであれば、その都度県と相談して重複のない予算執行を心がければいい話ですし、結果的に重複してしまってもそれが市民にとって便宜性が向上しこそすれ致命的なマイナスになるとはとても思えません。もし現実に政令市指定を捨てようとする政令市長がいるとすれば、それは完全に県全体の目線で自らの市を捉えている方ではないでしょうか。市に住む人は市民であるとともに県民でもありますが、市長というのは市民の利益を最大化するために選ばれた人ですので市民の目線から政策を行わなければならないと考えます。

 大阪市で行われる5月の投票は大阪市民にとって大きな岐路になるかと思います。政令市のままで色んな問題を少しずつ改善していくのか、あるいは政令指定を外し普通の市として再出発するのか――どの道を選ぶかによって10年先の姿には恐ろしく大きな違いが出てくると思います。大阪市は橋下市長の政治団体の勢力が強いし、まだまだ市長の人気も高いと聞いておりますので後者が過半数を取る可能性は高いかもしれません。また、何らかの理由で他党の組織票が動けば後者の選択に大きなバイアスがかかるかもしれませんが、投票率が高くなれば結果はまだわからないでしょう。いずれの選択肢を選ぶにしても大阪市民の方々には悔いの残らないような投票になりますよう他県からひそかに祈念申し上げます。(黒猫翁)